瓔珞(えいらく)34話 卑怯な提案
目次
あらすじ
乾隆帝は張廷玉(ちょうていぎょく)と鄂爾泰(オルタイ)の二人を呼ぶと水害による税の免除を命じました。しかし二人の重臣は反対しました。皇帝は水害で苦しむ民は施しをせねば耐えられぬと説きました。
辛者庫(しんじゃこ)の女官たちは夜になっても養心殿の除草をしていました。女官たちは養心殿の灯火が一晩中消されず軍機大臣(ぐんきだいじん)が呼ばれていると噂していました。ある女官は陛下は私たちよりも働いて蒙古語や西蔵後だけでなく回族の言葉も分かり万民から尊敬されていると言いました。別の女官は「本当かしら?」と疑いました。
話を聞いていた劉女官(りゅうにょかん)は不敬な言葉を使った女官を鞭で叩きました。劉女官は皇帝について論じてはならぬと叱りました。劉女官は他の女官を裏に回し、瓔珞(えいらく)に引き続き作業をするように命じました(※後で理由がわかります)。
瓔珞(えいらく)は一人で草を刈っていました。
乾隆帝は政治の話が終わり、部屋の外に出ました。乾隆帝は高斌(こうひん)が娘の葬儀を行う日だけ帰郷を認めることを李玉(りぎょく)に命じました。
瓔珞(えいらく)は養心殿を出て行く乾隆帝を一瞥しました。
次の日。
乾隆帝は輿に乗って移動していました。乾隆帝は昨夜瓔珞(えいらく)から「陛下のすべての行いは民の目と心に記憶されます」と言われたことを思い出していました。昨夜、瓔珞は仕事が山積して苦悩する乾隆帝を励ましたのでした。
「李玉(りぎょく)。思えば朕は瓔珞(えいらく)に厳しすぎた。皇帝の言う通りあの者は優秀だ。命令を出す。いや、朕が長春宮に行き直接伝えよう。涙にむせぶあの者の顔が見たい。」
乾隆帝は言いました。
夜の辛者庫(しんじゃこ)。
袁春望(えんしゅんぼう)は外出しようとする瓔珞(えいらく)に声を掛けました。
瓔珞は長春宮に行くと答えました。
「瓔珞。皇后様への恩は十分返したはずだ。」
「皇后様は重篤でずっとお眠りになっているわ。話すこともできない状態よ。何かしてあげないと気が済まないの。」
「自分の心配は?お前だって体調がよくないだろう。昼も働きづめなのに夜も奉公するのか?」
「皇后様は主よ。師であり、姉なの。皇后様がいなければ私はとっくに死んでいた。兄さん(袁春望)が倒れても看病するわよ。」
「本当か?」
「兄さんがしてくれたように、今度は私が粥を食べさせてあげる!行ってくるね!」
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)の口を掴むと駆け出しました。
袁春望(えんしゅんぼう)は放心しながら自分の口に触れました。
庫房(こぼう、瓔珞の寝床)。
袁春望(えんしゅんぼう)が中に入ると劉女官(りゅうにょかん)が急いで出て来ました。袁春望は劉女官に何をしていたのか尋ねました。劉女官は物を取りに来ただけだと答えました。
長春宮。
明玉(めいぎょく)の手引きで瓔珞(えいらく)が皇后の見舞にやって来ました。爾晴(じせい)は怖い顔をしながらその様子を見ていました。爾晴はそっと庭の扉を開けると瓔珞が傅恒(ふこう)と話をしていました。
「若様。乾清宮で当直では?なぜここにいるの?」
「軍機処への遣いの途中で寄ったのだ。」
二人は仲睦まじく話していました。
それを見た爾晴(じせい)はただならぬ気持ちになりました。
そこに、乾隆帝が見舞に現れました。
爾晴(じせい)と明玉(めいぎょく)は皇帝を出迎えました。
乾隆帝は皇后の容態を尋ねました。
明玉(めいぎょく)が答えようとしましたが、爾晴(じせい)が邪魔をして先に答えてしまいました。
「今夜は当直じゃないでしょ?どうして爾晴さんがここに?」
「眠れなかったからあなた以外の者は頼りなくて心配になったの。早くお茶を用意して。」
爾晴は気味の悪い笑みを浮かべました。
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)のことが心配になりました。
部屋。
「皇后。瓔珞を赦免する。長春宮に戻そうと思うがどう思う?」
乾隆帝は皇后に話しかけました。
富察皇后(ふちゃこうごう)は眠ったままでした。
爾晴(じせい)は侍りながら話を聞いていました。
「嬉しいのはわかっている。あの者には自由に生きてほしいのだろ?そなたが目覚めるのならあの者に掟の無理強いはせぬ。そなたの望みはすべて叶えてやろう。」
「陛下。よい知らせゆえすぐに瓔珞に伝えます。」
爾晴は皇帝に言いました。
「ここにいるのか?」
乾隆帝は尋ねました。
「はい。裏にいます。」
爾晴は答えました。
裏庭。
爾晴は乾隆帝を裏庭に案内しました。すると、瓔珞は傅恒の衣の袖をめくり上げているところでした。
「こんな夜更けにどうして富察侍衛が?陛下。そんなつもりでは・・・」
爾晴は戸惑った様子で言いました。
傅恒は瓔珞のかわりに井戸水を汲もうとしているところでした。
乾隆帝は何も言わずにその場を去りました。
李玉は口をポカンと開けていました。
爾晴は瓔珞を見てほくそ笑みました。
爾晴が戻って来ると、通路で明玉が睨んでいました。
「なぜなんですか。優しくて善い人だった爾晴さんが瓔珞を敵にしているなんて!」
明玉は爾晴に尋ねました。
「何の話?敵なんて思ってないわ。」
爾晴は冷たく言いました。
「二人が会っているところをわざと陛下に見せたでしょ!」
「偶然よ。」
「私は騙されないわ。瓔珞に嫉妬してるんでしょ!」
明玉が言うと、爾晴の表情が恐ろしくなりました。
「そうだとしたら何なの?あなたもずっと富察侍衛が好きだった。瓔珞が憎くないの?」
爾晴は恐ろし気な様子で言いました。
「恋が叶わぬからといって友を憎んだりしません!」
「友?いつから魏瓔珞(ぎえいらく)と友に?長年皇后様に仕えてきたのに魏瓔珞は瞬く間に皇后様の腹心となったわ。あの者のどこが私より優れているというの?あの女のせいで富察侍衛(ふちゃしえい)は婚姻を拒み私は宮中の笑い者よ。あなたには我慢できても私には無理よ。」
「瓔珞を陥れるなんて卑怯よ!」
「卑怯?瓔珞は侍衛(しえい)とあいびきしたのよ?」
「爾晴さんも誘惑してたでしょ。ひどすぎる。」
「明玉。あなたは私の妹同然よ。嫉妬に駆られたの。悪かったわ。黙っていて。」
爾晴(じせい)は明玉(めいぎょく)の手を掴んで懇願しました。
「瓔珞にあやまりなさいよ。」
明玉は言いました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)に言えば復讐されるわ。私のほうが長い付き合いでしょう?秘密にしてちょうだい。明玉。お願いよ。」
「・・・・。今回だけですよ。二度目はありません。」
明玉(めいぎょく)は赦しました。
養心殿。
乾隆帝は傅恒(ふこう)が瓔珞(えいらく)と仲を深めている様子を見て衝撃を受けていました。李玉(りぎょく)が瓔珞を赦免する宣旨を持ってくると乾隆帝は乱暴に奪って投げ捨てました。
次の日の辛者庫(しんじゃこ)。
劉女官(りゅうにょかん)は太監に調べるよう命じました。劉女官は特に「庫房」を調べて来るよう強調しました。しばらくして太監が呪いの人形を劉女官に差し出しました。劉女官は瓔珞(えいらく)に「これは何?」と尋ねました。
承乾宮。
乾隆帝は嫻貴妃(かんきひ ※貴妃に昇進している)に会うと、前はろくに話せもしなかった永珹(えいせい)が嫻貴妃(かんきひ)のおかげで文字が書けるようになったことを褒めました。
「そなたは母の務めを果たしている。」
「永珹(えいせい)が賢いだけです。私は何もしていません。今度お試しになってはいかがです?今や唐詩も暗唱できます。」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
乾隆帝は頷きました。
珍児(ちんじ)が部屋に入って来て嫻貴妃(かんきひ)に耳打ちしました。
嫻貴妃(かんきひ)は辛者庫(しんじゃこ)の瓔珞(えいらく)が巫術(ふじゅつ)を使って高貴妃(こうきひ)を呪っていたと言いました。
乾隆帝は審問することに決めました。
審問の場。
乾隆帝とともに嫻貴妃(かんきひ)が同席しました。
瓔珞(えいらく)と劉女官(りゅうにょかん)が召喚されました。
嫻貴妃(かんきひ)は劉女官に嘘偽りなく申すよう命じました。
劉女官は密告があったので捜索したところ庫房から人形が見つかり人形には高貴妃(こうきひ)の誕生日が書かれ首には赤い麻紐が巻かれていたので瓔珞(えいらく)が高貴妃を呪い殺したと言いました。
乾隆帝は人形を手に持ち眺めていました。
嫻貴妃(かんきひ)は瓔珞(えいらく)に申すよう命じました。
「誰かが私を陥れるため人形を隠したのです。」
瓔珞(えいらく)は表情を変えずに冷静でした。
「お前ごときを陥れる者がいるとでも?」
劉女官は言いました。
「私にどんな動機があるのです?」
瓔珞(えいらく)は劉女官に言いました。
「儲秀宮(ちょしゅうきゅう)に牛乳を届けたときに虐げられたでしょ。誰もが知っているわ。逆恨みをして呪ったのでしょう?」
劉女官は言いました。
「動機まで考えて下さるとは抜かりがありませんね。」
瓔珞は言いました。
「陛下。嫻貴妃(かんきひ)様。お話したことはすべて真実です。庫房に住むのは魏瓔珞(ぎえいらく)だけです。ほかの誰かが呪いの人形を仕込めましょうか。それに高貴妃(こうきひ)様をお恨みになる者は他にはいません。」
劉女官は言いました。
「濡れ衣でございます。」
瓔珞は土下座しました。
「高貴妃(こうきひ)様がお亡くなりになった後、宮中の誰もが悲しみに暮れていた頃、お前だけが楽しそうにしていた。」
劉女官(りゅうにょかん)は言いました。
「証拠は出ておる。罪を認めよ。」
乾隆帝は呪いの人形を瓔珞の前に投げました。
辛者庫(しんじゃこ)の管事の部屋。
「何をしているの?」
錦繍(きんしゅう)が黄色い声を出して話しかけました。
袁春望(えんしゅんぼう)は筆を置くと錦繍(きんしゅう)を無視して本を手に取りました。
「魏瓔珞(えいらく)の死が迫っているというのにまだ無視するのですか?」
錦繍(きんしゅう)が言うと、袁春望(えんしゅんぼう)の目が丸くなりました。
「何だと?魏瓔珞が死ぬとはどういうことだ!」
袁春望(えんしゅんぼう)は真剣な表情で錦繍(きんしゅう)に尋ねました。
「高貴妃様を呪ったのだから間違いない。証拠もあるから言い逃れできないわ!」
錦繍が言うと袁春望は慌てて駆け出しました。
「今更行ったって無駄よ。」
錦繍は呟きました。
侍衛(しえい)室。
「富察傅恒!富察傅恒!」
袁春望(えんしゅんぼう)は急いでいました。
「何者だ。無礼だぞ。」
海蘭察(ハイランチャ)は袁春望(えんしゅんぼう)を止めようとしました。
「富察侍衛(ふちゃしえい)は魏瓔珞(えいらく)を知っているだろ?」
袁春望(えんしゅんぼう)はため口で言いました。
「海蘭察。もうよい。」
袁春望を無視しようとしていた傅恒は海蘭察に言いました。
「高貴妃を呪った罪で魏瓔珞は訴えられた。じきに処断が下される。」
袁春望は言いました。
「誰が訴えたのだ?」
傅恒は尋ねました。
「劉女官だ。」
袁春望は言いました。
「なぜあの人が!?」
海蘭察(ハイランチャ)は困惑しました。
「他の者から銀子を貰ったのだ。」
傅恒(ふこう)は行こうとしました。
「今行けば火に油だぞ!」
袁春望は厳しい口調で言いました。
「なぜだ?」
「侍衛が女官のために嘆願するなど私通だけだ。富察侍衛。本来慎刑司(しんけいし)で裁くべきなのに審問の場所はなぜか養心殿だ。富察侍衛なら理由を知っているはずだ。行くのは構わぬが皇帝を怒らせれば瓔珞の命はないぞ!」
袁春望は言いました。
傅恒(ふこう)は部屋から出て行きました。
「あんた、一体何がしたいんだ。」
海蘭察(ハイランチャ)は袁春望(えんしゅんぼう)に尋ねました。
「これは、人助けだ。」
「助けに行けない者に瓔珞の話をするなんて意味ないだろ。」
「俺は利害を説いただけだ。どう行動するかは富察さんが決めることだ。」
長春宮。
「姉上。姉上。本当は回復していることは知っている。だが現実を受け入れられなくて起きないのでは?」
傅恒(ふこう)は富察皇后(ふちゃこうごう)に尋ねました。
「お休みの邪魔になります。」
爾晴(じせい)は傅恒が瓔珞のために無茶をしないか気がかりでした。
「母上は姉上が心配で泣いて日々を送るあまり片方の目を失明しました。父上も仕事が手に付きません。長春宮の誰もが姉上を心配しています。姉上の敵を討ってくれた瓔珞(えいらく)が危ないのです。助けてやってください!姉上、聞こえているのでしょう。答えてください。眠り続けるのは流産に向き合えないからですか?後宮の争いに疲れたからですか?逃げたいからですか?一生寝ているおつもりですか!姉上。お願いです。私と瓔珞(えいらく)を助けてください。姉上にしか瓔珞を救えません。」
傅恒(ふこう)が言うと、皇后の手がピクリと動きました。そして皇后の目から涙が流れ落ちました。
「瓔珞を助ける方法があるわ。」
爾晴(じせい)は傅恒(ふこう)に言いました(※後でわかります)。
養心殿。
「陛下。これは細結びでございます。細結びは片側を引っ張れば簡単にほどけます。刺繍や他の仕事でもそうですが、私が細結びを使うことはありません。これが、私の結び方です。私が今までに刺繍した物を調べればわかります。」
瓔珞(えいらく)は人形を手に取ると、説明しながら結び目をほどいて、結び直しました。
「結び方が違うというだけで無実というつもり?」
劉女官は言いました。
「劉さんはこの人形をどこで見つけたの?」
「庫房よ。」
「庫房のどこ?」
「薪の山の後ろよ。壁に小さい穴が開いている。」
「高貴妃様がお亡くなりになり二月以上が経ちます。なぜ証拠を置いたままに?」
「それはこっちが聞きたいわ。」
劉女官(りゅうにょかん)は瓔珞(えいらく)に言い返しました。
「では、この証拠を残しておいたとします。木の人形は長期間穴の中にありました。庫房は湿気が多く夏は薪も湿ってしまう。でもこの人形は二月も放置されていながら湿っていません。水分を含んだ木は乾いても跡が残るはずです。」
瓔珞は言いました。
「・・・・・。」
劉女官は言い返せませんでした。
乾隆帝はそっぽを向いていました。
「つまり、この人形は最近仕込まれたのです。」
瓔珞は言いました。
「劉女官。どういうこと?」
嫻貴妃(かんきひ)はわざとらしく尋ねました。
「私にはわかりません。」
劉女官は答えました。
「これくらいのことが分からないとは?」
瓔珞は言いました。
「貴妃様。何者かの策略です。黒幕を突き止めてください。」
瓔珞は土下座しました。
「劉女官を慎刑司(しんけいし)へ。」
嫻貴妃(かんきひ)は命じました。
「貴妃(きひ)様。お助けください。私が悪うございました。罪を認めます。陛下!お許しください!」
劉女官は土下座しましたが、太監に連れて行かれました。
「魏瓔珞は無実だったようです。陛下。」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
「高貴妃を呪った罪は潔白だ。だが侍衛(しえい)とあいびきした罪は?」
乾隆帝は自分の爪の垢を眺めながら言いました。
「陛下。女官の名誉に関わらることゆえ証拠なしには・・・。」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
「朕が見たのだ。誰か。この者も慎刑司(しんけいし)へ連れて行け。」
乾隆帝は命じました。
瓔珞(えいらく)は立ちあがると自ら行こうとしました。
「待て。先ほどの得意げな弁解はしないのか?」
乾隆帝は尋ねました。
「陛下。御覧になられたのなら言い訳はできません。」
瓔珞は答えました。
「よかろう。連れて行け!」
乾隆帝は瞳を潤ませました。
瓔珞(えいらく)は連れて行かれました。
皇帝の部屋。
乾隆帝は悩まし気な表情をしたままやきもきしていました。李玉(りぎょく)は外で跪いている富察侍衛(ふちゃしえい)について尋ねました。
「放っておけ。」
乾隆帝は言いました。
「陛下。火急の用とのことです。」
李玉(りぎょく)は言いました。
「どうせあの女のことだろう?伝えよ。魏瓔珞(ぎえいらく)は宮中で淫行を働いた。絶対許せぬ。」
乾隆帝は言いました。
庭。
「傅恒(ふこう)。一日中跪いているとはどういうつもりだ?」
乾隆帝は部屋から出て来て傅恒(ふこう)に尋ねました。
「陛下。結婚を許可してください。」
「魏瓔珞とだな?言っておくが認めぬ。絶対に許さぬ。今度こそ魏瓔珞の首をはね風紀を正さねば。」
「陛下から賜った縁談のことです。」
「何と言った?」
「陛下。陛下の御意向に従い刑部尚書(けいぶしょうしょ)来保の孫、喜塔腊(ヒタラ)爾晴(じせい)を娶ります。」
傅恒(ふこう)は言いました。
牢屋。
「おい瓔珞(えいらく)。帰っていいぞ。早く知ろ。死ぬまでここにいるつもりか?早くしろ。」
太監は瓔珞(えいらく)を釈放しました。
「私も出して。無実だわ。」
劉女官(りゅうにょかん)は太監に言いました。
「嫻妃(かんひ)様が審問に来られる。待っていろ。」
太監は言いました。
辛者庫(しんじゃこ)の永巷。
瓔珞(えいらく)は辛者庫(しんじゃこ)に戻りました。
傅恒(ふこう)が瓔珞の前に現れました。
「何をしたの?」
「婚姻だ。」
「何?」
「爾晴と結婚する。謝罪はしない。ある物を返しに来た。受け取ったがあなたに返す。」
傅恒は香り袋を返しました。
「今更返されても困るわ。いらないなら、捨てる。」
瓔珞は香り袋を水場に捨てると去ろうとしました。
「瓔珞。」
傅恒(ふこう)は瓔珞(えいらく)を呼びとめました。
「傅恒。あなたの想いは、何度も聞いたわ。黙っていたけど、信じていたのよ。だから陛下に尋ねられても釈明しなかった。真実だから。罰も受け入れるつもりだった。私たちの、絆を信じていたから。でもあきらめたのね。あなたが先に、退いたのよ。理由は聞かない。つらい決断でも目の前にある結果だけで十分だわ。もう二度と、会いに来ないで。」
瓔珞は涙を流しながら走り去りました。
傅恒は水場に捨てられた香り袋を拾いました。
庫房。
「嘘つき。全部嘘よ。大ウソつき!」
瓔珞(えいらく)は傅恒(ふこう)に言われた甘いささやきの数々を思い出しました。
「誰のことだ?牢屋にいたんだろ?何も食べてないだろ。粥を持ってきた。勝手にしろ。おい瓔珞。傅恒に振られて八つ当たりか?お前が悪いんだろ。」
袁春望(えんしゅんぼう)が姿を見せました。
「どうして?」
「違うか?何度も拒んでもったいぶらせて本当はあいつのことが死ぬほど好きだったんだろ。」
「そうよ。好きだった。優しくて、親切で何でも知っていて教養があって頼れる人。心から好きだった。愛してたわ。」
「やめろ!!!瓔珞。やっと認めたか。笑っちまうな。傅恒のような若様なら欲しい物は何でも与えられた。だが瓔珞、お前には何度も突き放された。それがかえって奴の熱を上げさせた。だが結局はお前を娶らなかっただろ。お前たちの愛など笑い話だ。」
「兄さんもうやめて!」
「瓔珞よ!聞け!お前は頑固でいつも傲慢だった。失恋してつらい気持ちになったのは初めてだろう。そのつらさを話してくれ。瓔珞よ。世の中は不公平だ。どれだけ愛し合っていても結ばれない。お前の身分では永遠に富察家と結ばれないのだ!」
袁春望(えんしゅんぼう)は言いました。
瓔珞(えいらく)は何度も袁春望(えんしゅんぼう)の胸を叩きました。
「冷静になれ!お前たちを引き裂いたのは皇帝だ!お前を諦めたのは富察傅恒だ!俺なら、決してあきらめずに傍にいる。お前を見守りいつも気にかけている。困っていないかと。悪態はよせ。瓔珞。私はお前の義兄で守り神だ。絶対傷つけない。この世でお前を一番大切に想っている。泣くな。我慢しろ。俺の言葉を忘れるな。これからは絶対に自分を見捨てた奴のために涙を流すな。無駄だからだ。他人は笑うだけで何もしてくれない。瓔珞。」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)を抱き締めました。
「兄さん。胸が痛い。」
「わかってる。」
「悲しいの。」
「だろうな。」
「耐えられないわ。」
「今だけだ。二度と傷つきたくないなら覚えておけ。他人に真心を捧げてはならぬ。お前の最大の問題は何かわかるか?外見は冷たいが心が温かいことだ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は言いました。
「兄さん。ごめんなさい。八つ当たりしたわ。間違っていた。
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)の肩に頭をもたげました。
「いいんだ。お前は感情の起伏が激しい。それも弱点だ。だが構わぬ。その泣き顔は風情がある。私と一緒にいる時は泣きたいだけ泣け。もう叱らぬ。」
「兄さん。尋ねたことがなかったけど、なぜ兄さんのような人が紫禁城で働いているの?」
回想シーン。
流民たちが都に向かって歩いていました。
少年の袁春望は長い距離を歩いたので足が痛くなりました。
袁春望の父は置き去りにしようと母だけ呼びました。
しかし母が戻って来て袁春望を連れて行きました。
「俺は父に五度も捨てられた。母はいつも連れ戻しに来た。都に着いたが親は亡くなった。母は亡くなる前にこう言った。実の子じゃないと。実の母はとうに亡くなり俺は跡継ぎに貰われたと。」
袁春望は瓔珞に言いました。
袁春望の育ての母は亡くなる直前に実父の数珠を彼に渡しました。
「それで、お父さんを捜したの?」
「捜したとも。」
「見つかった?」
「見つけたよ。父は数え切れぬほどの召使いを抱え、大きな屋敷に住んでいた。金銀財宝も山ほど持ってた。名乗ろうと思ったがあの頃は世間知らずで奴婢にされ、あの屋敷(紫禁城)に売られたんだ。」
袁春望は言いました。
過去。
雍正帝(ようせいてい)は袁春望(えんしゅんぼう)を皇子福慧(ふくけい)の奴隷にしました。皇子は袁春望の背中に跨って遊びました。
福慧が亡くなりました。
雍正帝は世話係を三十回の杖刑(じょうけい)に処しました。
「恨んだとも。数珠に目をつけた奴らを。あれは八伯父だ。帝位争いに敗れ、その怒りを私にぶつけたのだ。そして私を紫禁城に送り込んだのだ。父のことも恨んだ。目の前にいるのが実の息子と分からず福慧に仕えさせ牛馬のごとく働かせた。師のことも恨んだ。ずっと優しかったのに私に罪をなすりつけたのだ!」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)に言いました。
(※映像のみが写ってましたが、袁春望の師はが牢屋の中で袁春望(えんしゅんぼう)の手を引く場面がありました。そこには何らかの刃物がありました。もしかして去勢道具!?)
感想
瓔珞(えいらく)34話の感想です。またまた酷いことになってしまいましたね。富察傅恒(ふちゃふこう)はどうして爾晴(じせい)と結婚することに決めたのでしょうか?乾隆帝は傅恒(ふこう)が瓔珞(えいらく)と結婚したがっていると思っていたので、縁組を承諾した時はどんな気持ちだったのでしょうか?
現代の価値観ではちょっとわからないですね。
傅恒(ふこう)が爾晴(じせい)と結婚すると、瓔珞(えいらく)との関係は無かったことにしてもらえるからでしょうかね。そうすれば瓔珞(えいらく)が助かると思ったのでしょうか!?
肝心な時に富察皇后(ふちゃこうごう)は役に立たなかったです。
それとも、傅恒(ふこう)は瓔珞(えいらく)よりも出世を選んだのでしょうか。
上三旗の絆は奴婢階級の爾晴(じせい)と結婚できるほど強いものなんですね。
それにしても乾隆帝はどうかしちゃってますね。瓔珞(えいらく)に対して乱暴すぎるし、どう見ても悪い男・・・・・・。袁春望(えんしゅんぼう)のほうがマシな気がします。
そして、最後の袁春望(えんしゅんぼう)の独白ですが、正直よくわからなかったので考え直して整理してみました。
袁春望(えんしゅんぼう)を陥れたのは八伯父と、趙太監長です。なぜ袁春望(えんしゅんぼう)が雍正帝(ようせいてい)に本当のことを伝えられなかったのかわかりませんが、数珠を奪われたのだったらそれも納得です。
八伯父という人は雍正帝(ようせいてい)が奴婢が自分の息子と気づかずこき使っている様子を見たかったと私は解釈しました。そうなれば雍正帝(ようせいてい)は人倫に背く悪い皇帝になるからです。趙師匠はそれを知っていて、もう雍正帝(ようせいてい)もこの世にいないから袁春望(えんしゅんぼう)のことはどうでもいいと思ったのでしょう。
そういうわけで、袁春望(えんしゅんぼう)は哀れな人物ということが今回描かれていたのでしょう。
ならば、袁春望(えんしゅんぼう)がこの時点で紫禁城にいる目的は一体何なのでしょうね!?
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