瓔珞(えいらく)35話 縁談の波紋
目次
あらすじ
富察傅恒(ふちゃふこう)は乾隆帝から賜った爾晴(じせい)との縁談を願い出ました。振られた瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)に慰められました。袁春望(えんしゅんぼう)は自分に罪をなすりつけた裏切り者の師匠で太監長の趙慶(ちょうけい)と優しかった嫻妃(かんひ)が賄賂を資金を得るために密貿易しようとしていたことに憤りました。
袁春望(えんしゅんぼう)は理不尽な世の中を恨んで苦しんでいました。
「私は兄弟のように高貴な血が流れている。なのに私だけがなぜこのような身の上なのだ。私はこの世で最大の屈辱に耐えているのだ。奴婢に身を落として這うような日々だ!よいか瓔珞(えいらく)。世の中は無常で不公平だ。殺されたくないなら殺す側に回るんだ。でも心配するな。俺がいる。俺はお前に誓う。お前を守ると。俺たちは一心同体だ。お前は俺で、俺はお前だ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は目を閉じている瓔珞(えいらく)に言いました。
翌日。
傅恒(ふこう)は純妃(じゅんひ)に呼ばれました。
「あなたは爾晴(じせい)と婚姻を結んだそうね。」
純妃(じゅんひ)は傅恒(ふこう)に尋ねました。
「陛下のご命令です。」
傅恒(ふこう)は答えました。
「違う!瓔珞(えいらく)のために罪を帳消しにするためでしょう?辛者庫(しんじゃこ)の奴婢のためにそこまでするの?」
「私事ですから、お構いなく。」
「傅恒(ふこう)。あなたは覚えていないの?」
「純妃(じゅんひ)様。何のことでしょうか?」
「私は貴方のお姉さまと親友だった。以前はよく富察府(ふちゃふ)へ一緒に遊びに言ったわ。」
純妃(じゅんひ)は目を潤ませて言いました。
過去の場面。
まだあどけなさの残る純妃(じゅんひ)が嫁ぐ前の富察皇后(ふちゃこうごう)と手をつないで楽しそうにしている場面。皇后は純妃(じゅんひ)に料理を作ってあげるので何が食べたいか尋ねました。純妃(じゅんひ)は緑豆糕(りょくとうこう)が食べたいと言いました。皇后は銀耳(ぎんじ)はどうか尋ねました。純妃(じゅんひ)はそれも食べたいと言いました。
庭で傅恒(ふこう)が剣術の稽古をしていました。
純妃(じゅんひ)は傅恒(ふこう)の見事な武術に憧れました。
「清好(せいこう)。」
皇后は純妃(じゅんひ)に呼びかけました。
純妃(じゅんひ)は皇后に微笑みました。
「傅恒(ふこう)。明日茶館に付き合って。珠宝店にも寄ってきてね。明後日は遠出するから馬の用意もお願いね。腰の房がほつれているわ。また縫ってあげる。」
皇后は傅恒(ふこう)に頼みました。
「姉上は友人が多く覚えていません。」
傅恒(ふこう)は純妃(じゅんひ)に答えました。
「嘘つき。私が贈った房を身に着けているくせに。」
純妃(じゅんひ)が言うと、傅恒(ふこう)は房を引っ張って取りました。
「姉上のものだったのでは?」
傅恒(ふこう)は言いました。
過去の場面。
傅恒(ふこう)の本の上に房が置かれていました。傅恒(ふこう)はそれを姉からのものと思い身に着けました。純妃(じゅんひ)は遠くからその様子を見ていました。
「純妃(じゅんひ)様。他に御用がなければ失礼します。」
傅恒(ふこう)は房を純妃(じゅんひ)に返しました。
「傅恒(ふこう)様のような薄情なお方はもうお忘れください。仮に誠実な方だとしても純妃(じゅんひ)様は妃嬪(ひひん)です。陛下の寵愛を得て地位を固めるのです。これまで寵愛を避けて皇后様をお守りして何を得られたというのですか?傅恒(ふこう)様もつれません。純妃(じゅんひ)様の苦労は無駄です。ご不快になられても申します。聡明なあなた様がどうしてこんな愚かな真似を?これ以上傷つく前に終わりにしましょう。」
玉壺(ぎょくこ)は純妃(じゅんひ)に言いました。
「うるさい出て行って!」
純妃(じゅんひ)は玉壺(ぎょくこ)を突き飛ばしました。
「待って。文は渡したのよね?」
純妃(じゅんひ)は尋ねました。
「・・・・・・。」
玉壺(ぎょくこ)は黙っていました。
「あの時、傅恒(ふこう)への文を預けたわ。」
純妃(じゅんひ)は言いました。
過去の場面。
純妃(じゅんひ)は玉壺(ぎょくこ)に恋文を預けました。
玉壺(ぎょくこ)は文を破きました。
「純妃(じゅんひ)様のために・・・。」
玉壺(ぎょくこ)は弁明しました。
「気持ちが通じたと思っていた。房がその証よ。私が側室として宝親王府に入ったから、疎遠になっただけだと思っていた。違った。想いを伝えたあの文は、届いていなかった。なぜなの?言いなさい!」
純妃(じゅんひ)は涙を流しながら玉壺(ぎょくこ)を揺さぶりました。
「純妃(じゅんひ)様。あの時既に宝親王府へ行くことは決まっておりました。文を渡せばあなた様と蘇氏の名誉が傷つくと・・・。」
玉壺(ぎょくこ)は言いました。
「それで私が深みにはまっていくのを黙って見ていたの?そのせいで私はあの人の前で大恥をかいたのよ!」
純妃(じゅんひ)は顔をくしゃくしゃにして怒りました。
「純妃(じゅんひ)様。傅恒(ふこう)様のために死んでも親王に嫁がぬと拒んでおいででしたよね。でも福晋(ふくしん)は富察家のお嬢様と聞いてやっとご同意された。傅恒(ふこう)殿に代わって福晋(ふくしん)を守るとおっしゃったのです。やっと前向きになられたお嬢様にどうして本当のことが伝えられましょうか。」
玉壺(ぎょくこ)も泣きました。
「君が心の我に同じになれば、定めて想いに背くまじ。あの人はあの房をずっと身に着けていた。それは私への情の証と思っていた。玉壺(ぎょくこ)。多くは望んで無かったわ。私を愛してなくてもいい。ただ私の気持ちをいつまでも覚えていてほしい。それだけでよかった。でも勘違いしていたわ。傅恒(ふこう)は私の気持ちなど知りもしなかったのよ!ずっと傅恒(ふこう)だけを想いあの人のために皇后様を守った。笑い種よ!あなのせいよ。玉壺(ぎょくこ)。私の胸の痛みがわかる?私がどれだけつらいのか。あなたに分かるはずもない!!!一人芝居だったなんて。これ以上の恥辱がこの世にあるの?」
純妃(じゅんひ)は泣きながら言いました。
「純妃(じゅんひ)様。私のしたことが許せぬならどうぞ罵ってください。でもあなた様のお気持ちが届かないまま十年が経ちました。夢からお目覚め下さい。」
玉壺(ぎょくこ)は言いました。
「貴妃様がお越しになりました。」
部屋の外で侍女が言いました。
「純妃(じゅんひ)様。気取られてはなりません。涙をお拭きください。純妃(じゅんひ)様だけの問題ではありません。蘇家のこともお考えください。」
玉壺(ぎょくこ)は涙を拭うと房を自分の袖に隠しました。
「お取込み中に邪魔をしたかしら?」
嫻貴妃(かんきひ)がと珍児(ちんじ)部屋に入って来ました。
「嫻貴妃(かんきひ)様。」
純妃(じゅんひ)はケロリと振り返り嫻貴妃(かんきひ)に挨拶しました。
「堅苦しい挨拶はいらないわ。今まで通りにしてください。」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
「罪人をここへ。不届きな奴婢だが棒で打ったら白状した。この者が何を言ったと思う?」
嫻貴妃(かんきひ)輝発那拉(ホイファナラ)氏は劉女官(りゅうにょかん)を純妃(じゅんひ)の前に突き出しました。
「嫻貴妃(かんきひ)様。この者は言い逃れるために手段を選びません。平気で他の者を陥れるので信用鳴りません。」
玉壺(ぎょくこ)は言いました。
「玉壺(ぎょくこ)。しらばっくれるつもり?純妃(じゅんひ)様の命令で瓔珞(えいらく)を陥れました。」
劉女官(りゅうにょかん)は床に這いつくばりながら言いました。
「お黙り。純妃(じゅんひ)様はあの者とは関係無い。何のために陥れたというの?他の者から指示されたくせに。純妃(じゅんひ)様に罪を着せるつもり?」
玉壺(ぎょくこ)は劉女官(りゅうにょかん)に言いました。
「純妃(じゅんひ)。何か言うことは無い?」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
「貴妃様。濡れ衣です。」
純妃(じゅんひ)は言いました。
「純妃(じゅんひ)の人柄はよく知っているわ。これ以上の妄言は赦せぬ。下をお切り。平気で嘘をつき他の者を陥れるような者は見せしめのため厳罰に処さねば。これからは主を貶める不届きものは誰もいなくなるわよ。」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
「か・・・感謝いたします。」
純妃(じゅんひ)は震えました。
「手が冷たいわ。驚いたわ。罪人を外へ。最近冷えて来たわ。あなたは冷え性だから体に気を付けてね。」
嫻貴妃(かんきひ)は言いました。
「はい。」
純妃(じゅんひ)は言いました。
嫻貴妃(かんきひ)は帰りました。
「変わったは。嫻妃(かんひ)の頃とは別人よ。」
純妃(じゅんひ)は貴妃の残忍な仕打ちに気分が悪くなりました。
「純妃(じゅんひ)様。無事切り抜けましたわ。」
玉壺(ぎょくこ)は言いました。
「いいえ。無事じゃない。嫻貴妃(かんきひ)はすべてお見通しだわ。そうよ。」
純妃(じゅんひ)は怯えました。
辛者庫(しんじゃこ)。
錦繍(きんしゅう)は庫房の中を外から覗き込んでいました。
「何をしているの?」
数名の女官たちが集まって来ました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)は昇り損ねたの。笑い種よ。どんな顔をしているか楽しみだわ。」
錦繍(きんしゅう)は言いました。
「何か用?」
瓔珞(えいらく)が出て来ました。
「錦繍(きんしゅう)がお笑い種だって。」
女官は言いました。
「笑いたいの?だったら手伝うわ。笑え!藁是!」
瓔珞(えいらく)は錦繍(きんしゅう)の腕を掴み、頬をつねりました。
袁春望(えんしゅんぼう)も離れたところから様子を見守っていました。
「痛い!痛い!瓔珞(えいらく)!富察侍衛(しえい)は他の女と結婚するのよ。残念だったわね!」
錦繍(きんしゅう)はとっておきの言葉を放ちました。
「私を笑う前にすることはないの?お腹はすいてない?もうする昼よ。さぼっていることがバレたらご飯は抜きね。私を笑いたければ好きにすればいい。」
瓔珞(えいらく)が言うと女官たちは仕事に戻りました。
「相変わらず冷酷ね。」
錦繍(きんしゅう)は瓔珞(えいらく)を憎みました。
「そうよ。私は冷たいの。まだ笑うつもり?笑え!笑え!笑え!」
瓔珞(えいらく)は錦繍(きんしゅう)の襟首を掴み、頬をつねりました。
「やめろバカ!」
錦繍(きんしゅう)は逃げました。
「ハッハッハッハ。昨夜泣いていたのは誰だ?朝一に腫れた目を洗いに行っただろ。どうした。泣いたと知られたくないんだろ。」
袁春望(えんしゅんぼう)が前に出ました。
「泣きたければ泣く。涙を見られたらバカにされるわ。」
「元気が出たか?」
「元気でなくても働かねば死ぬわ。泣いた後は働かないと。」
「泣いて私に八つ当たりしたのは誰だ?お前だろ。違うか?」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)の頭を撫でました。
その様子を戻って来た錦繍(きんしゅう)が見ていました。
「過ぎ去った時は返って来ないわ。悲しくても自分にこう言うわ。何でもない。もっといい人がいると。」
「いいぞ。気概がある。」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)を褒めました。
錦繍(きんしゅう)は腹を立てました。
しばらくして、錦繍(きんしゅう)は袁春望(えんしゅんぼう)を呼びとめると高貴妃(こうきひ)の死の真相について話し始めました。
袁春望(えんしゅんぼう)の表情が引きつりました。
長春宮。
富察皇后(ふちゃこうごう)は蝙蝠に襲われ高貴妃(こうきひ)に突き落とされた時の夢を見ていました。皇后はその衝撃で目覚めました。
「皇后様がお目覚めになった。着て頂戴!皇后様。お加減はいかがですか?」
明玉(めいぎょく)は皇后のもとに駆け寄りました。
「脚が動かないわ。どうなっているの?」
富察皇后(ふちゃこうごう)は起きることができませんでした。
「皇后様。お待ちください。すぐに侍医を呼びますから。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「侍医でなく傅恒(ふこう)を呼んで。傅恒(ふこう)に話があるの。」
皇后は慌てていました。
辛者庫(しんじゃこ)。
「おい。お前たち。集まれ。昨夜錦繍(きんしゅう)が逃げたことは知っているか?」
袁春望(えんしゅんぼう)は太監を引き連れて現れ女官たちを呼び集めました。
瓔珞(えいらく)は草刈りをしながら話を聞いていました。
「警備が厳しいのにどうやって?」
女官たちは首をかしげました。
「なんて大胆なの。恥知らずね。」
別の女官は言いました。
「お前たちに言っておく。何か知っている者は報告しろ。でなければ同罪だ。仕事に戻れ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は言いました。
女官たちは仕事に戻りました。
「兄さん。」
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)を呼びとめました。
「お前たちはあっちを捜せ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は太監を追い払いました。
「錦繍(きんしゅう)が消えたとは?」
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)に尋ねました。
「私が消えたと言ったか?あの女は逃げたのだ。」
「逃げたなら前兆があるはずよ。警備は厳重だわ。羽でもなければ無理よ。」
「それより痛そうだな。毎日水を使うから酷くなる一方だ。ここでは治らぬから焼炕処(しょうかんしょ)へ行け。焼炕処(しょうかんしょ)は惜薪司(せきしんし)に属して宮殿の暖房を司る。まだ暖房は使わないからあそこの仕事は楽だ。これからは真面目に働くな。楽することを覚えろ。」
「分かったわ。そうする。錦繍(きんしゅう)は・・・。」
「その話はもう終わりだ。軟膏をやろう。毎日塗れ。関係無い奴のことは忘れるんだ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)に軟膏を渡しました。
「行くぞ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は太監を連れて行きました。
長春宮。
「皇后。心配したぞ。やっと目覚めたな。」
乾隆帝は富察皇后(ふちゃこうごう)の手を取りました。
「すべて聞こえていました。ただ目が開きませんでした。まるで、悪夢を見ているようでした。覚めない悪夢です。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は言いました。
「もう大丈夫だ。皇后。心配いらぬ。侍医によれば時がたてば脚はもと通りになるそうだ。」
乾隆帝は皇后を励ましました。
「姉上。皇帝陛下にご挨拶します。」
傅恒(ふこう)が駆け付けました。
「朕は政務があるゆえ戻らねば。夜にまた来る。傅恒(ふこう)。皇后のそばに行け。皇后と話したら朕のところへ来い。話がある。皇后に負担をかけるなよ。」
乾隆帝は帰りました。
「姉上。」
「爾晴(じせい)は?」
「姉上。」
「お前は乱心したの?」
「縁談を拒めば瓔珞(えいらく)は殺されました。」
「瓔珞(えいらく)はたとえ死のうとも恐れないわ。わかっているの?縁談を受けたあなたを瓔珞は絶対に許さない。本当にこのまま他人同士として生きるつもり?あなたと瓔珞が不幸になるだけじゃない。爾晴(じせい)まで不幸になるのよ。どんな代償を支払ってでも陛下に撤回していただかねば。」
「姉上。既に勅命が出ており爾晴(じせい)も外へ出ました。もう後戻りできません。撤回を願い出れば富察家の名誉は地に落ち爾晴も世間に顔が立たなくなります。爾晴(じせい)は私のために承諾したのです。それをなかったことにできません。」
傅恒(ふこう)は爾晴(じせい)の魂胆を分かっていませんでした。
「少なくともあなたと、瓔珞は幸せになれる。そう思っていたわ。それなのに、なぜこんなことになってしまったの。もう出て行って。顔も見たくない。早くして。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は弟に落胆しました。
「傅恒(ふこう)!生涯の幸せに関わる問題よ。本当にそれでいいの?」
「はい。」
「生涯後悔するのではと心配でならないわ。」
「姉上。決断の責任は負います。」
傅恒(ふこう)は去りました。
富察皇后(ふちゃこうごう)は涙を流して苦しみました。
長春宮の門前。
嫻貴妃(かんきひ)と純妃(じゅんひ)が見舞に来ました。
純妃(じゅんひ)は皇后様の容態がまだ良くないと言って断りました。
嫻貴妃(かんきひ)は「皇后様が富察侍衛(しえい)の縁談に不満なので皇帝陛下にもお会いにならない」と純妃(じゅんひ)に言いました。嫻貴妃(かんきひ)は承乾宮に純妃(じゅんひ)を誘いました。純妃(じゅんひ)は断れずについて行きました。
長春宮。
富察皇后(ふちゃこうごう)は薬を拒んでいました。
「なぜ機嫌が悪いのかは分からぬが自分を痛めつけるのだけはやめろ。」
乾隆帝は明玉(めいぎょく)のかわりに薬を皇后に飲ませてあげようとしました。
「いらっしゃったのですか?」
皇后は目に涙を浮かべていました。
「そうだ。だがどうやら、そなたの心はここにはないようだ。皇后。聞かせてくれぬか。何を思っている。」
「陛下。傅恒(ふこう)の縁談をやめていただけませんか。」
「できぬ。」
「陛下ができないとおっしゃるなら何も申せません。」
「皇后。朕には分からぬ。爾晴(じせい)は美しく礼儀もわきまえておる。祖父は刑部尚書だ。上三旗に昇格させ身分も傅恒(ふこう)に釣り合うようにしよう。皆が喜んでいるのに何が気に入らぬのか?」
「皆が喜んでいる?陛下。そうお思いなのですか?」
「当然だ。」
「陛下。陛下はこの国の主です。陛下に逆らえる者などいません。長年お仕えしてきた陛下にあえてお尋ねしたいことがあります。なぜ傅恒(ふこう)と瓔珞(えいらく)の仲を引き裂くのですか?」
「・・・・・・。釣り合わぬと言ったはず。」
「陛下。傅恒(ふこう)は身分のことなど気にしないのにどうしてこだわるのですか?」
「正室は重要だ。朕は傅恒(ふこう)に大きな期待を寄せておる。油断ならぬ女を正室にできるか?すべては傅恒(ふこう)のためだ。悪い女に騙されれば一生を棒に振る。」
「はっ。はっ。」
「なぜ笑う。」
「陛下の私情のためではありませんか?」
「・・・・・・ !朕の私情だと?」
乾隆帝は辺りを見回して動揺しました。
「陛下は瓔珞(えいらく)をお気に召しておいでです。妃としたいのです。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は初めて微笑みました。
明玉(めいぎょく)は皇后と瓔珞(えいらく)のことが心配になりました。
「フッ。ハッ。皇后。眠り過ぎたせいで気が動転しているのでは?それは朕の気持ちではなくそなたの思い込みだ。」
乾隆帝は右を向いたり左を向いたり落ち着かない様子で部屋から出て行こうとしました。
「陛下。陛下。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は椅子からずり落ち土下座しました。
「皇后様!」
すぐに明玉(めいぎょく)が皇后の身体を支えました。
「陛下。お願いでございます!」
「決して撤回はせぬ!」
「傅恒(ふこう)は決して瓔珞(えいらく)のことを忘れられません!姉だからわかります!ほかにおなごはいくらでもいるではありませんか。どうか想いを遂げさせてやってください!陛下!陛下!」
富察皇后(ふちゃこうごう)は懇願しました。
「侍医を呼べ。皇后はかなり悪いようだ。」
乾隆帝は李玉(りぎょく)に命じると、長春宮を去りました。
「皇后様。無理なお願いです。撤回などあり得ません。」
明玉(めいぎょく)は皇后に言いました。
「傅恒(ふこう)は私の大切な弟よ。瓔珞(えいらく)と一緒になってほしいの。でも・・・。もうダメだわ・・・。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は悲しみました。
通路。
「他人事なのになぜ泣くのだ。」
海蘭察(ハイランチャ)は明玉(めいぎょく)に駆け寄りました。
「腹が立つし。悲しいの。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「何が気に入らぬのだ?」
「富察侍衛(しえい)は臆病者で腹立たしいしそんな人を好きだった自分に腹が立つの。」
「ハッハッハ。」
「何よ。」
「来い。」
海蘭察(ハイランチャ)は手を引き建物の中に明玉(めいぎょく)を連れて行きました。
「ほら見てみろ。悩みがあっても遠くから眺めれば心が安らかになって憂いも消えるだろ。」
「そうかな。ここから飛び降りて死のうかしら。」
明玉(めいぎょく)は下を覗いてみました。
「うわ~。飛び降りるなら手伝おうと思ったのに。」
海蘭察(ハイランチャ)は明玉(めいぎょく)の背中を押してみました。
明玉(めいぎょく)は怖くなり壁まで戻りました。
「富察侍衛(しえい)の結婚くらいで死ぬものですか。」
「女性は変わり身が早いな。香り袋を贈ったのにもう嫌いになったのか?」
「瓔珞(えいらく)が可哀そうなの!富察傅恒(フチャふこう)は薄情者よ。皇后様も可哀そう。陛下に逆らってまでしたのに誰にも感謝されないの。」
「明玉(めいぎょく)よ。男女の愛だけが人生の大事か?この世は情だけではない。男には志がある。情だけがすべてではない。」
「偉そうに。志って何よ。」
「俺のか?戦場で活躍して大手柄を立てる。歴史に名を残すんだ。」
「結婚は?」
「しない。戦場では生死と隣り合わせだ。妻を何年を待たせることになる。死んだら寡婦になる。どっちにしても迷惑かけるだろ?だったら独り身のほうが気が楽だ。いつか千軍万馬を率いて戦に行って手柄を立てるんだ。明玉(めいぎょく)よ。目先のことで悩むな。十年たてばどうでもよくなる。笑ってやり過ごせ。」
「そうね。お返しよ。おあいこだから笑ってやり過ごして。」
明玉(めいぎょく)は海蘭察(ハイランチャ)の足を踏みました。
承乾宮。
嫻貴妃(かんきひ)は純妃(じゅんひ)に皇帝の寵愛を受けて子を産むよう暗に言いました。皇子を生めば富察皇后(ふちゃこうごう)よりも優位に立てると言いました。嫻貴妃(かんきひ)は永珹(えいせい)をあやしていました。嫻貴妃(かんきひ)は張院判(ちょういんはん)の診断によると皇后様はもうお子を宿せるお体ではないと言いました。
純妃(じゅんひ)は永珹(えいせい)を抱いてみました。
「髪をすいてあげるわ。あなたは美しいしまだ若いもの。まだ十分間に合うわ。皇后様がいくら優しくても人生までは保証してくれない。この美しさがいつまでも続くと思う?花のかんばせも時が流れれば衰えて行くのよ。10年、20年後は?このまま寂しく生きるつもり?血を分けた子がいなければ?今までは忠告しても無駄だった。でも今なら・・・痛かったかしら?でも痛みは人を目覚めさせるわ。」
嫻貴妃(かんきひ)は純妃(じゅんひ)の髪を漉いてあげました。
感想
瓔珞(えいらく)35話の感想です。富察傅恒(フチャふこう)が爾晴(じせい)と結婚することになり、爾晴(じせい)は紫禁城を出て行き結婚の支度をすることになりました。今回のドラマでは純妃(じゅんひ)が瓔珞(えいらく)を陥れて殺そうとしたことが明らかになりました。嫻貴妃(かんきひ)は純妃(じゅんひ)が傅恒(ふこう)を慕っていたので皇帝の来臨を拒み続けていたことを知りました。嫻妃(かんひ)は恐ろしいことに、劉女官(りゅうにょかん)の舌を切ることで口封じをして純妃(じゅんひ)に大きな恩を与えたのでした。弱みを握られた純妃(じゅんひ)は嫻貴妃(かんきひ)の誘いを断れなくなりました。嫻貴妃(かんきひ)は後宮で権力を得るために純妃(じゅんひ)に乾隆帝の夜伽をするよう唆しました。
袁春望(えんしゅんぼう)は錦繍(きんしゅう)に何をしたのか今のところ明らかではありません。もしも袁春望(えんしゅんぼう)が錦繍(きんしゅう)の命を奪ったとしたら、いくら主人公の味方とはいえ非道すぎる行いです。願わくば錦繍(きんしゅう)は城の外に出たと思いたいです。
富察皇后(ふちゃこうごう)は自分を慕っている女官を夫の皇帝が好きであることを知りました。皇后にとっては瓔珞(えいらく)が夫と寝るよりも弟と一緒になってくれたほうが幸せでした。目覚めた皇后にとって夫が他の若い生娘を好きになるなどもってのほかです。
傅恒(ふこう)の性格からして爾晴(じせい)に冷たくすることはないでしょう。爾晴(じせい)にとって心が得られなくても傅恒(ふこう)と一緒になることが幸せなのでしょうか?富察家にとってもどうなんでしょうかね。
続きがとても気になります。
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