瓔珞(えいらく)38話 我が子の命日に
目次
あらすじ
清蓮(せいれん)は傅恒(ふこう)に元恋人の瓔珞(えいらく)が作った大切な香り袋を隠しておいたと話しました。傅恒は清蓮に感謝しました。清蓮(せいれん)は傷だらけになった自分を売り飛ばさないでと懇願しました。傅恒は劉家職に書房の掃除を清蓮にさせることにして夫人を中に入れないよう命じました。
傅恒が自室で本を読んでいると妻の爾晴(じせい)が人参茶を差し出しました。爾晴は自分のために簪(かんざし)をくれようとしていたのに勘違いしたことを謝りました。爾晴は直してもらった簪を傅恒に見せました。爾晴は嫉妬したことを少し後悔すると清蓮を愛人にすることを提案しました。
「まだわからぬのか。一時の誤解で髪を切ったり爪を剥がすのか?清蓮も人間だ。命を粗末に扱うな。」
「あの子が好きなのね。」
「長春宮にいたあなたは優しく賢い大人の女性だった。だが今は夫人たちとの交流に忙しく富察家の情報を来保(らいほ)に流したり奴婢に暴力を振るう。正気じゃないぞ。」
「あなたはそう責めるけど来保は私の祖父よ!後ろ盾が欲しくないの?」
「必要無い!陛下は徒党を組むことを嫌がると何度言わせるのだ!」
「ご立派な事。魏瓔珞(ぎえいらく)に未練があるから私を非難するのよ!」
「・・・そうだ。その通り忘れられない。だがあなたが望むものを与えようとしてきた。でも今はあなたを見るたびに血の滴る手を思い出す。」
「教えてあげる。私より魏瓔珞(ぎえいらく)のほうが極悪よ!」
爾晴(じせい)は身体を上下に震わせて叫びました。
「あの人は無実の者には手を出さない。あなたは?あなたの嫉妬で人を傷つけた!」
「あなたが想い続けても無駄よ。あなたが愛すべき人は私なの!」
爾晴は醜い表情で言いました。
「ヒタラ爾晴。あなたは遠く瓔珞に及ばない。あなたの残酷さには身の毛がよだつ。」
傅恒(ふこう)は部屋から出て行きました。
「傅恒!傅恒!戻って来てよ!」
爾晴(じせい)は廊下まで出ると転びました。
「起きてください。」
弟の富察傅謙(フチャふけん)が爾晴に駆け寄りました。
「私のどこがいけないの?祖父への口利きも受け入れない。高官の夫人たちとの交流も嫌がる。奴婢への罰も気に食わない。すべてあの人のためなのにこんなに憎まれるなんて。どうしてなの!どうしてこんなことに!」
爾晴は泣きました。
傅謙は爾晴の肩に触れようとしてやめました。
「富察傅恒。酷い侮辱ね。いつか、私の痛みを思い知らせてやる。」
爾晴は夫を恨みました。
日中の紫禁城。
瓔珞(えいらく)は盆に茶碗を乗せて運びました。明玉(めいぎょく)はその茶碗を珍珠(ちんじゅ)に任せました。瓔珞は明玉に不機嫌な理由を尋ねました。明玉は爾晴が皇后に会いに来て泣いていると言いました。
「前は仲がよかったのにどうしたの?」
「富察府の若奥様になって人が変わったみたい。着飾って傲慢になった。私ごとき奴婢は付き合えないわ。」
「人が変わったんじゃない。以前は本性を出していなかっただけ。」
「そうかも。前から女官の身分に不満だったもの。皇后様も見抜いていたわ。やっと本性を現したのね。」
「若いのにため息ばっかりしてたら老けちゃうわよ。」
瓔珞は明玉を和ませました。
他の女官たちが爾晴が持参した荷物を運んできました。
明玉は爾晴が長春宮に戻って来ると思いました。
皇后の部屋。
「あなたは騒ぎ過ぎよ。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は爾晴(じせい)に言いました。
爾晴は富察皇后(ふちゃこうごう)に今の暮らしは慣れないのでまた皇后に仕えたいと言いました。
富察皇后は必要無いと言いました。
爾晴は夫が家に帰っても一緒に寝てくれないので寂しくてたまらないので戻りたいと言いました。
「爾晴。正直に言って。何があったの?」
「・・・・。傅恒が奴婢を見初めて私と口論になり、私が怒って奴婢を罰すると傅恒が激怒しました。」
爾晴(じせい)は泣き出しました。
「私が知る限り、傅恒はそんな性格ではないわ。あなたが度を越してしまったのよ。」
富察皇后は冷静に言いました。
「皇后様。ここでしばらくお仕えさせてください。傅恒の怒りが収まるまでお願いします。」
「仕方ないわ。しばらくここにいなさい。」
爾晴(じせい)が偉そうな態度で皇后の部屋から出て来ました。
「何かご用ですか?」
瓔珞(えいらく)は爾晴(じせい)に尋ねました。
「私の荷物の整理がまだなの。」
「皇后様の脚は天気が悪くなると痛みます。私は皇后様の脚をお揉みしなければなりません。」
「明玉がいるでしょ。お前は私の荷物を片付けなさい。」
「他の者を呼びますからお待ちください。」
「魏瓔珞。私の命令に背くとはいい度胸ね。」
「あなたがおいでになるのは紫禁城です。富察府ではなく長春宮です。ここでは皇后様のご命令が最優先です。」
瓔珞(えいらく)が言うと、爾晴(じせい)は瓔珞(えいらく)の頬を激しく叩きました。
「私は主でお前は奴婢。思い知らせてやる。何が起きてで何が体裁をね!」
爾晴(じせい)が怒ると瓔珞(えいらく)は爾青(じせい)の頬を叩き返しました。
「打ったわね!正気なの?」
「威張りたいなら富察家へ帰りなさい。紫禁城では誰もが陛下のしもべよ。あなたの身分は私と同じよ。私が過ちを犯せば皇后様が対応なさる。あなたの命令は受けないわ。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
爾晴(じせい)の大きな声を聞き付け琥珀と珍珠(ちんじゅ)が駆け付けました。
「誰か!誰か!珍珠!」
爾晴は元部下の名を呼びました。
「ヒタラ爾晴。長春宮はもうあなたの天下じゃない。わがままは通用しないわ。」
「なら皇后様に言いつけてやる。」
「皇后様にはあなたが必要だった。でもあなたは何のためらいもなく長春宮を出て行った。皇后様がそんなあなたを信じると?琥珀。珍珠。床が転びやすいから富察夫人が転倒したわ。手を貸して。」
瓔珞(えいらく)が命じると、琥珀と珍珠は爾晴(じせい)のもとに近寄りました。
「触れるな!」
爾晴(じせい)は叫びました。
部屋。
爾晴(じせい)は鏡で自分の頬を確かめていました。
「爾晴さん。」
女官が軟膏を持って来ました。
「うるさい!よくしてやったのに。今では全員瓔珞に懐柔し私を軽んじるとは。」
爾晴は琥珀に怒鳴りました。
「爾晴さん。長春宮の者は魏瓔珞に支配されています。明玉さんまで瓔珞の味方です。敵対しないほうがいいですよ。」
琥珀は言いました。
「皇后様はそれほどまでに魏瓔珞を?」
「瓔珞は皇后様に忠義を尽くしています。皇后様が病の間、悪意を持って近づく者がおりました。瓔珞は門を閉ざして追い返し皇后様を療養させ夜も徹して看病したのです。皇后様はもちろん皆が心から敬わっています。だから逆らわないほうがいいと思います。」
「そうだったの。ありがとう。」
「爾晴さんにはお世話になりましたから。この御恩は忘れません。」
「今後何かあったら・・・。」
「私が爾晴さんのお力になります!」
「(傅恒。魏瓔珞。ようくも私の人生を台無しにしたわね。絶対許さない。)」
爾晴(じせい)は二人を憎みました。
鍾粋宮(しょうすいきゅう)。
純妃(じゅんひ)は玉壺(ぎょくこ)と庭を散歩していました。純妃は最近自分の顔色がよくないか玉壺に尋ねました。玉壺はお産が終わったら体調も肌もよくなると主を励ましました。
「過ぎたことはもういいのよ。誰にでも過ちがあるの。わだかまりが消えたからわかったの。陛下こそ天下に及ぶ者のない優れたお方なのだと。今は子が無事生まれ健康で聡明であることを願うばかりよ。私と血を分けた者はこの世で一人。一番大切な存在になるわ。」
純妃(じゅんひ)は傅恒(ふこう)のことを忘れていました。
「純妃(じゅんひ)様は彩色にすぐれご寵愛を独占して皆が羨ましく思っています。これからも幸福な日々が続きますよ。」
玉壺(ぎょくこ)は言いました。
「あ・・・・あ・・・・。」
純妃(じゅんひ)は急に産気づきました。
夜。
純妃(じゅんひ)のお産がはじまりました。
乾隆帝は隣の部屋で頭を抱えながら純妃(じゅんひ)が苦しむ声を聞いていました。
赤子の産声がしました。
翌日。
爾晴(じせい)は純妃(じゅんひ)が第六皇子永瑢(えいよう)を出産したと皇后に報告しました。
「玉佩(ぎょくはい)を携えるという意味ね。皇太后様が可愛がられるはず。」
富察皇后(ふちゃこうごう)は言いました。
爾晴(じせい)は純妃(じゅんひ)が純貴妃(じゅんきひ)に冊封されたと言いました。
富察皇后はお祝いに行きそびれたと言いました。
爾晴は富察皇后にも子をもうけるように言いました。
「私には容易に望めることではないわ。」
皇后は言いました。
爾晴は子を授かるという秘薬を皇后に贈りました。
「皇后様。外部から持ち込まれたものなので張院判(ちょういんはん)に調べさせては?」
明玉(めいぎょく)は薬を取り上げました。
爾晴は繊細な問題なのでここだけの話にしたいと言いました。
富察皇后は瓔珞に黙っているよう命じました。
爾晴(じせい)の部屋。
琥珀は爾晴に薬のことを心配しました。
爾晴はもともと自分が子を授かるために用意した物だと言いました。
「私が戻れば瓔珞はお払い箱よ。あの薬が効けば私の信頼は戻る。その時には、少しずつ追い詰めてやるわ。」
養心殿。
乾隆帝は李玉(りぎょく)に皇后の回復具合を尋ねました。李玉(りぎょく)は順調に回復してきたと答えました。乾隆帝は純貴妃(じゅんきひ)の出産で皇后は永璉(えいれん)のことを思い出してつらい思いをしているかもしれないので会いに行くことに決めました。
長春宮。
富察皇后(ふちゃこうごう)は永璉(えいれん)の夢を見てうなされていました。瓔珞(えいらく)は皇后のもとに駆け付けました。皇后は永璉が夢の中で泣いていたと訴えました。そこに乾隆帝がやって来て泣き声は第六皇子のものだと言いました。乾隆帝は涙を流してつらい思いをしている皇后を抱き締めました。
「私の苦しみがわかるのは陛下だけ・・・。」
「そうとも。朕もで・・・きるかぎり訪ねて来るから考えすぎるでないぞ。すべてがよくなる。朕が保証する。」
月日が経過ました。
張院判(ちょういんはん)は富察皇后(ふちゃこうごう)を診察しました。
富察皇后(ふちゃこうごう)は再び懐妊しました。
爾晴(じせい)と明玉(めいぎょく)、瓔珞(えいらく)は跪いてお祝いしました。
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)を呼びとめました。
「知っていて黙ってたの?葉先生の処方薬には避妊作用がある成分が含まれているの。先生に言われたわ。皇后様のご体調が整うまで薬を続けなさいと。それなのに皇后様は懐妊された。薬をやめたの?」
瓔珞(えいらく)が訪ね、明玉(めいぎょく)が答えづらそうにしていると爾晴(じせい)が現れました。
「瓔珞(えいらく)。長春宮での出来事をいちいちあなたに報告しろと?私の手引きがなければ長春宮に慶事は望めなかったでしょ。」
爾晴(じせい)は言いました。
「知らなかったのは、私だけなの?」
瓔珞(えいらく)は腹が立ちました。
辛者庫(しんじゃこ)。
瓔珞(えいらく)は糞を入れるための壺を蹴って憂さ晴らしをしていました。
そこに袁春望(えんしゅんぼう)がやって来て何があったか事情を尋ねました。
瓔珞(えいらく)は皇后が懐妊したけど弱った体での妊娠は命を縮めると言いました。
「覚えておけ。ここでは子が何よりも重要なのだ。皇后だろうが答応(とうおう)だろうが同じだ。皇后様の闘病中嫻貴妃(かんきひ)が実権を握り純貴妃(じゅんきひ)が寵愛を独占した。このままでは皇后様の地位が危うくなる。皇后様のご決断は正しい。いらぬ心配をするな。」
「地位より皇后様にはご健康でいてほしい。」
「そう思ってるのはお前だけだ。今更もう遅い。皇后様がお決めになったのだ。お前はしっかりお仕えしろ。無事に皇子を生むことが一番重要だからな。」
長春宮。
瓔珞(えいらく)は庭で生まれる子のために刺繍をしていました。
富察皇后(ふちゃこうごう)が爾晴(じせい)と庭で散歩していました。
皇后は傅恒(ふこう)が都に戻るので迎えに行ってはどうかと爾晴(じせい)に言いました。
爾晴(じせい)は出産まで長春宮にいると言いました。さらに、爾晴(じせい)は「義母上が山西に行った傅恒(ふこう)に清蓮(せいれん)を随行させました。二人はねんごろになり私など厄介者です。」と言いました。
皇后は傅恒(ふこう)はそんな人では決してないと言いました。
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)に「無視したお返しよ」と言って手の甲を噛みました。
瓔珞(えいらく)は力仕事のせいで手が太くなり針仕事がやりづらくなったと言いました。瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)も皇后様が転ばないように付き添うように言いました。
鍾粋宮(しょうすいきゅう)。
乾隆帝は第六皇子と純貴妃(じゅんきひ)に会いました。純貴妃(じゅんきひ)は囲碁の手合わせがしたいと言うと、乾隆帝は用があると言って帰りました。
御花園(ぎょかえん)。
乾隆帝は酒を何杯もあおっていました。海蘭察(ハイランチャ)は皇帝を慰めようと理由を尋ねました。乾隆帝は今日は永璉(えいれん)の命日だと言って地面に酒を垂らしました。
「先帝が名付けた永璉(えいれん)とは国を継ぐという意味だ。期待した通り生まれつき賢く勤勉だった。八歳の時に木蘭に狩猟に行った。空飛ぶ鷹を仕留め朕にくれた。皇子の中で最も目をかけていた。惜しい。天が与えた月日は短く夭折した。第六皇子を見て思い出したのだ。子が死んでも涙一滴も流さぬ父だぞ。皇帝が涙を流せるのは三つの場合に限られる。親を失った時、大災害の時、そして国家滅亡の時だ。それ以外の時に泣けば天罰が下る。朕は天子だ。万民は朕の民だ。永璉(えいれん)だけではない。皇后に無情と責められ冷酷だと責められ用途も涙を流さなかった。だが今宵は、皇子のことがしのばれてならぬ。」
乾隆帝は言いました。
海蘭察(ハイランチャ)は慰めの言葉もないが、皇后が懐妊したと報告しました。
長春宮。
乾隆帝は泥酔した状態で皇后に会いに来ました。
「お前はいまいましい瓔珞か。夢にまで現れるとは。不愉快だ。そちはしこめではないが狡猾だ。このような人相のおなごは嫁の貰い手が無い。宮から出られぬなら朕が一生面倒を看るのか?」
乾隆帝は瓔珞(えいらく)の頬をひっぱりました。
富察皇后(ふちゃこうごう)が庭に出て来ました。
「そなたは順調なようだな。絶対に皇子だ。永璉(えいれん)が帰って来た。永璉(えいれん)はすぐれた子だった。永遠に朕の最愛の子だ。朕はどれほど心を痛めたか。しかしいつか帰ってきてくれると思った。ほら、もうすぐだ。」
乾隆帝は皇后の腹に自分の顔を近づけました。
「こやつ。何を見ている。嫌な奴だ。」
乾隆帝は瓔珞(えいらく)が視界に入ると怒りだしました。
瓔珞(えいらく)は姿を消しました。
富察皇后(ふちゃこうごう)は乾隆帝の心配をしました。
感想
瓔珞(えいらく)38話の感想です。純妃(じゅんひ)が皇子を生んで、しばらくして懐妊薬を飲んだ富察皇后(ふちゃこうごう)も懐妊されました。でも皇后の体は弱り切っており出産に耐えられるかどうかもわかりません。瓔珞(えいらく)の味方は皇后と明玉(めいぎょく)と珍珠(ちんじゅ)、袁春望(えんしゅんぼう)だけしかいません。周りは敵だらけの状況で、瓔珞(えいらく)は皇后様を守ることを人生の主目的としているようです。
瓔珞(えいらく)にとって姉のような富察皇后を守ることはこの時点での生きる目的になっているようです。
女性の幸せといえば結婚して男子を生んで夫や息子にたくさん稼いでもらうことしか人生の最高の選択肢が無かった時代です。
女性がなすべきことといえば、お金と権力を持っている男に気に入られて尽くすことしかなかったのです。
女性が結婚相手に倫理観や理性を求め、相手を選択することすらできなかった時代がつい100年ほど前までそこにありました。
愛情を求めるなどあり得なかった時代がそこにあったから人心は荒んで酷い考えの人が今でも多い原因かもしれませんね。
そろそろまた主人公の瓔珞(えいらく)に一波乱ありそうですね。
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