瓔珞(えいらく)42話 鳳凰と錦鯉
目次
あらすじ
瓔珞(えいらく)は純貴妃(じゅんきひ)が明玉(めいぎょく)の体に針を埋めたと確信しました。明玉(めいぎょく)は儲秀宮(ちょしゅうきゅう)に移ってからのはじめの数年は純貴妃(じゅんきひ)が優しかったと言いました。
「でも先日見たの。当時の熟火処(じゅくかどころ)の管事の王忠(おうちゅう)が玉壺(ぎょくこ)とあいびきしてたの。熟火処の太監が職務を怠ったせいで第七皇子様がお亡くなりになった。でも王忠は非番で処刑されなかった。太監と女官のあいびきはよくあるから気にしなかった。でも玉壺(ぎょくこ)は私のことを純貴妃(じゅんきひ)様に報告したの。それ以来二人の態度は変わったわ。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
過去の場面。
玉壺(ぎょくこ)の命令で女官たちが明玉(めいぎょく)の体に針を仕込む場面。
「口止めをされてから疑問が生じたわ。火事の黒幕は純貴妃(じゅんきひ)様かもと。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「あなたはまだ、殺されていない。突然死んだら噂が立って陛下が不審に思うからよ。でもあなたは秘密を握ってる。純貴妃(じゅんきひ)は円明園であなたを殺す気よ。明玉(めいぎょく)。どうして黙っていたの?」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「とても言えないわ。瓔珞(えいらく)。無理よ。純貴妃(じゅんきひ)様は妃嬪(ひひん)の中で最も寵愛が深い。証拠もないのに純貴妃(じゅんきひ)様を訴えることはできない。家族にも害が及ぶわ。」
「そうね。軽率な行動は慎み一撃で仕留めなければ。」
「瓔珞(えいらく)。私たちを守ってくれた皇后様はもういないわ。純貴妃(じゅんきひ)様に逆らうなんて無理よ。」
「必要なのは明玉(めいぎょく)を守ってくれる人。後ろ盾を見つけて皇后様の敵を討つ。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
夜。
瓔珞(えいらく)は赤い布を手に持ち傅恒(ふこう)との日々を思い出していました。
次の日。
海蘭察(ハイランチャ)は部下に弓を教えていました。
瓔珞(えいらく)は海蘭察(ハイランチャ)に視線を送りました。
「円明園にまで恋人がいるのですか?明玉(めいぎょく)さんが知ったら悲しみますよ。」
部下の一人が海蘭察(ハイランチャ)に言いました。
皆は笑いました。
「殴られたいのか。続けろ。」
海蘭察(ハイランチャ)はそう言うと瓔珞(えいらく)に会いました。
「索倫(ソロン)侍衛(しえい)。」
瓔珞(えいらく)は海蘭察(ハイランチャ)に話しかけました。
「海蘭察(ハイランチャ)と呼んでくれ。」
海蘭察(ハイランチャ)は言いました。
「あなたに、頼み事があります。」
「任せろ。」
「中身を聞く前に受け入れるのですか?」
「傅恒(ふこう)に瓔珞(えいらく)さんを助けるよう頼まれた。親友と同じように君を信じる。僕は何をすればいい?」
池。
袁春望(えんしゅんぼう)は池を掃除していました。
「兄さん。食事よ。」
瓔珞(えいらく)は弁当を持って筏に乗りました。
「いつもは俺がお前に食事を届けている。何があった?正直に言え。」
「兄さんは私に尽くしてきてくれたわ。私にだって良心くらいあるわよ。」
「瓔珞(えいらく)。約束したな。外で何が起きようと俺たちは共に助け合う。円明園で生涯添い遂げると。後悔しているのか?」
「料理が冷めるわ。早く食べよう。」
「ああ。」
二人は食事を食べました。
「なぜ見つめるの?実は、私の部屋で雨漏りがするの。大雨が怖いわ。明日手伝ってくれる?」
「もちろんさ。朝飯前だ。」
「・・・・・・。」
瓔珞(えいらく)は仰向けに寝転びました。
袁春望(えんしゅんぼう)も仰向けに寝転びました。
儀式の場。
海蘭察(ハイランチャ)は放鳥するための鳥かごを太監に運ばせました。
「南無阿弥陀仏。」
皇太后が籠を開けると鳥たちが次々に飛び出しました。
乾隆帝と妃嬪(ひひん)たちはその様子を見ていました。
瓔珞(えいらく)たちは近くに侍っていました。
鳥は群れをなして大空を舞い上がりました。
鳥の中に五色の大きな鳥が飛んでいました。
「顎は燕、嘴は鶏、五色を備える。」
慶貴人(けいきじん)陸氏は言いました。
「誰が鳥を飼育したの?」
皇太后は尋ねました。
「皇太后様。皇帝陛下。皇后様。妃嬪(ひひん)様にご挨拶します。先ほど放鳥なさった鳥を飼育したのは私です。」
瓔珞(えいらく)が前に出て来て言いました。
「あの五色の鳥は何と言うの?」
皇太后は尋ねました。
「私もはじめて見ます。鳳凰かと存じます。」
瓔珞(えいらく)は丁寧に答えました。
「嘘だわ。普通の鳥しか育てていないはずよ。」
純貴妃(じゅんきひ)は言いました。
「皇太后様はご誕辰に放鳥を行いご人徳を示されました。天が感動したゆえ瑞祥(ずいしょう)が現れたのでしょう。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「はっはっは。この世には不思議なことが多い。これほど奇妙な事もあるものだ。陛下。そなたの考えはどうですか?」
皇太后は言いました。
「皇太后様。かつて五つの星が並ぶ吉兆が現れた際に祖父上は信じなかったどころか怒られたそうです。この者は皇太后様を喜ばせたかっただけ。お見逃しになっては?」
乾隆帝は言いました。
「陛下のおっしゃる通りです。この者は自ら鳥を五色に染めて籠に入れておいたのでしょう。褒美が目当てなのでしょう。」
純貴妃(じゅんきひ)は言いました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)。君主を欺くなんて恐れ知らずね。」
舒嬪(じょひん))納蘭(ナーラン)氏は言いました。
「皇太后様を気遣っただけよ。真に受けないで。」
嫻皇貴妃(かんこうきひ)は言いました。
「皇后様は誰に対してもご寛容です。ですがこの者は褒美欲しさに偽りを申しました。皆がこの者の真似をすれば後宮の風紀が乱れましょう。」
愉妃(ゆひ)は言いました。
「誰か、この者を捕らえよ。」
乾隆帝は言いました。
「まことの瑞祥だと証明してみせましょう。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「どのように証明するのだ?」
皇太后は興味津々な様子で尋ねました。
「皇太后様のご誕辰に鳳凰が現れました。これが瑞祥か私の自作自演か確かめるためにもう一度機会をお与えください。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「どうやって?もう一羽瑞祥を用意したとでも?」
純妃(じゅんひ)が言うと、愉妃(ゆひ)はくすくす笑いました。
「皇太后様。この者の言う事など信じないことにしましょう。皆が女官ごときに欺かれては天下に笑われます。八十回の杖刑(じょうけい)に処して白状させましょう。」
舒嬪(じょひん))は言いました。
「皇太后様を喜ばせようとしただけでは?お見逃しになっては?」
慶貴人(けいきじん)陸氏は言いました。
「そんなことをすれば皆がまじめに働かなくなるわ。」
愉貴人(ゆきじん)は言いました。
「お考え過ぎでございます。円明園には多くの錦鯉がいます。錦鯉を使って天意を探り、私が嘘をついているか確かめましょう。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「陛下。天が瑞祥を示すなんて初めて聞いたわ。だから私も確かめて見たいの。天が本当に私の善行に感動したのか、この者の自作自演かをね。」
皇太后は言いました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)。自信はあるか?」
乾隆帝は尋ねました。
「天が感動していれば瑞祥は再び現れるはずです。魏瓔珞(ぎえいらく)は身をとして天意を測り、瑞祥の真偽を調べます。」
瓔珞(えいらく)は土下座しました。
嫻皇貴妃(かんこうきひ)は自分が錦鯉を選ぶと言いました。
池に鯉が放流されました。
純貴妃(じゅんきひ)は瑞祥が現れなかったので瓔珞(えいらく)は嘘つきだと言いました。愉貴人(ゆきじん)も瓔珞(えいらく)を重罪に処するよう進言しました。
嫻皇貴妃(かんこうきひ)もかばいきれないと言いました。
「見なさい。寿の字だわ。」
皇太后が池を指さしました。
鯉が集まり寿の字になりました。
「まさに寿の字です。」
乾隆帝は母に言いました。
「天は皇太后様に感激してとてもまれな瑞祥をお示しになりました。皇太后さまは福に恵まれましょう。」
瓔珞(えいらく)は喜びを表しました。
李玉(りぎょく)も土下座して祝いました。
妃嬪(ひひん)たちも膝を折って祝福しました。
「はっはっはっは。天が瑞祥を示された。長年仏様を拝んで来たかいがあったわ。皆立ちなさい。お前は立派ね。褒美に何が欲しいか言いなさい。」
皇太后は瓔珞(えいらく)に話しかけました。
「皇太后様。ずっと紫禁城が恋しく帰りたいと思っていました。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「それだけなの?」
皇太后は尋ねました。
「天を感動させた皇太后様にお仕えしとうございます。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「なりません。」
乾隆帝は母に言いました。
「聡明なおなごよ。気に入ったわ。なぜ寿康宮(じゅこうきゅう)に置いてはならないの?」
皇太后は尋ねました。
「母上。この者は狡猾で抜け目ない者です。」
乾隆帝は言いました。
「私に仕えるのよ。そなたには関係無い。口がうまければ皆を笑わせられる。近頃退屈していたのよ。」
皇太后は言いました。
「この魏瓔珞(ぎえいらく)は皇太后様にお仕えいたします!」
瓔珞(えいらく)は笑顔を見せました。
「朕はこの者を嫌っているわけではなく答応(とうおう)に封じるつもりでした(母上に近づけてなるものか)。この魏瓔珞(ぎえいらく)内務府の奴婢の家に生まれました。答応(とうおう)の位でも高すぎるくらいです。」
乾隆帝は母に言いました。
「はっはっは。気が利く娘よ。私の誕辰に心を尽くして喜ばせてくれた。顔立ちも美しいわ。答応(とうおう)では位が低すぎるわ。貴人がふさわしいわね。」
皇太后は言いました。
「有難き幸せでございます。」
瓔珞(えいらく)は感謝しました。
純貴妃(じゅんきひ)は落胆しました。
嫻皇貴妃(かんこうきひ)は微笑しました。
「魏貴人(ぎきじん)。立ちなさい。」
皇太后は笑いました。
「はい。」
瓔珞(えいらく)は跪いたまますり寄りました。
「立ちなさい。将来報いを受け福に恵まれるでしょう。」
皇太后は数珠を瓔珞(えいらく)に与えました。
「この魏瓔珞(ぎえいらく)はもうひとつお願いがございます。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)身分をわきまえよ。」
乾隆帝は気に入らない様子で言いました。
「皇太后様。分不相応でございましょうか?」
瓔珞(えいらく)は皇太后に許しを求めました。
「そなたの頼み事とは?」
皇太后は微笑みました。
「純貴妃様。長春館で仕えた明玉(めいぎょく)は私の友でございます。どうか明玉(めいぎょく)をお与えください。」
瓔珞(えいらく)は頼みました。
「魏貴人。貴妃様から奴婢を奪うの?しきたりに反しているわ。」
愉貴人(ゆきじん)は瓔珞(えいらく)に言いました。
「私はかつての情を捨てたいだけです。お許しいただけなければ別のお願いをいたします。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「許す。たかが女官だ。譲ってやれ。」
乾隆帝は言いました。
「はい。」
純貴妃(じゅんきひ)は答えました。
「私めは・・・いえ。私(貴人)より感謝いたします。」
瓔珞(えいらく)は丁寧に土下座しました。
「母上。花火を準備しましたので見に行きましょう。」
乾隆帝は皇太后を誘いました。
「魏貴人も行きましょう。」
皇太后は瓔珞(えいらく)を誘いました。
女官部屋。
「瓔珞(えいらく)。私のためなの?」
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)に尋ねました。
「明玉(めいぎょく)。私は女官から貴人になったわ。異例の出世よ。喜んで。片付けましょう。」
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)に言いました。
「おい瓔珞(えいらく)。話したいことがある。」
部屋の外から袁春望(えんしゅんぼう)が声を掛けました。
明玉(めいぎょく)は部屋から出て行きました。
袁春望(えんしゅんぼう)が部屋に入って来ました。
「なぜだ。」
「何が?」
「生涯円明園で添い遂げるつもりだったろ?なぜ弘暦(こうれき)の奴なんかに?」
「ふっ。以前成りあがりたいと言ったでしょ。これからは二人で円明園でこき使われずに済む。共に紫禁城で栄華を極めましょう。皇太后様を喜ばせて貴人に封じられるとはね。幸運が舞い降りて来たわ。」
「俺の目はごまかせないぞ。魏瓔珞(ぎえいらく)。弘暦(こうれき)はお前を警戒して皇太后様に近寄せない。だから自分の妃にすることで遠ざけるもっともらしい理由を作ったのだ。瓔珞(えいらく)。お前は私に邪魔をさせぬよう雨漏りの修理を頼んだだろ?」
「ええ。わざと頼んだわ。女官で生涯を終えたくないもの。」
「絶対に行かせたくないぞ!」
「兄さん。」
「聞いてくれ。お前が誰に嫁いても構わぬ。嫁入り道具も揃えてやる。だが弘暦(こうれき)だけはならぬ。」
「なぜ?」
「理由は無い。とにかくダメだ!」
「兄さん。あなたにとっても悪くない話よ。なぜ反対するの?」
「瓔珞(えいらく)。頼むから貴人になるな。」
「勅命に背けと?」
「平気だ。円明園には毎日新鮮な果物が運び込まれる。それを利用して逃げよう。瓔珞(えいらく)。無事に逃げられるならそれで十分だ。他には何も要らぬ。一緒に逃げよう!」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)の腕を掴みました。
「兄さん。正気なの?」
「あ?瓔珞(えいらく)。考えろ。弘暦(こうれき)のもとに行くことは私への裏切りだ。裏切り者は絶対に許さぬ。本気で私と別れるつもりか?」
「兄さん。ごめんなさい。」
「そうか。そうか。瓔珞(えいらく)。今日のことは忘れるな。裏切ったのはお前だ。これからお前は輝かしい道を歩み、俺は険しい道を行く。」
瓔珞(えいらく)に振られた袁春望(えんしゅんぼう)はがっかりして部屋から出て行きました。
「兄さん・・・(どうして陛下に敵意を抱くの?)。」
瓔珞(えいらく)には理解できませんでした。
袁春望(えんしゅんぼう)は帽子を取って柳の木を何度も拳で殴りました。
「なぜ奴は生まれながらにすべてを持っていて、私には何一つ与えられぬのだ。奴はなんでも手に入れ、私はたった一つの宝でさえ奪われる。天よ!あまりに不公平だ!ひどすぎる!魏瓔珞(ぎえいらく)。お前が私を傷つけた。この先俺が何をしようと恨むな。」
袁春望(えんしゅんぼう)は悔しがりました。
夜の女官部屋。
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう) が言い残した言葉の意味を考えていました。そこに李総監が部屋に入って来ました。
「魏貴人(ぎきじん)。陛下が今宵、夜伽をせよと仰せです。」
李玉(りぎょく)は瓔珞(えいらく)に言いました。
女官たちは服と装身具を持って来ました。
「夜伽を?」
「これは類まれなる幸運ですぞ。お前たちもお着替えを手伝え。」
李玉(りぎょく)はそう言うと部屋から出て行きました。
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)の髪を整えました。
「瓔珞(えいらく)。夜伽を避ける方法は無いの?」
「新しい貴人が召されることは当然よ。拒めない。」
「夜伽をさせたいならいつも陛下がご滞在なさる九州清晏晏殿(きゅうしゅうせいあんでん)に呼ぶはずよ。なぜ長春仙館へ?皇后様の御所よ?何か企んでいるに違いないわ。あなたを嫌な目に遭わせるつもりかも。」
「そうだとしても私は行かなければ。勅命には背けない。」
「瓔珞(えいらく)。私のせいよ。私が言わなければあなたは安心して暮らせたわ。」
「私は自ら騒ぎを起こさない。でも巻き込まれたら全力で戦うわ。攻撃されたら真正面からやり返す。怯えていては生きる意味がないもの。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
長春仙館。
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)とともに館に入りました。
「陛下はご政務でお忙しいゆえお待ちください。」
李玉(りぎょく)はそう言うと部屋の中に入りました。
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)とともに立ったまま待っていました。
月が天に上りました。
乾隆帝は何もせずに椅子に腰かけ本を眺めていました。
時計の針が20時35分になりました。
「陛下。魏貴人(ぎきじん)が寒風の中一刻以上も待っておられます。」
李玉(りぎょく)は皇帝に言いました。
乾隆帝は李玉(りぎょく)を無視しました。
瓔珞(えいらく)は外の楼閣で茶菓子を食べていました。
「魏貴人。何をなさっておいででしょうか。失礼ですぞ。」
徳勝が瓔珞(えいらく)に言いました。
「うん。明玉(めいぎょく)。この菓子は少し硬いわね。水分が少ないわ。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「次回は注意します。」
明玉(めいぎょく)は答えました。
徳勝は無視され館に駆け込みました。
「瓔珞(えいらく)。これでいいの?陛下のお怒りを買うわよ?」
明玉(めいぎょく)は心配しました。
「大丈夫かどうかは、見ていればわかるわ。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
館の中。
乾隆帝は徳勝から報告を受けると連れて来るよう命じました。
「皇帝陛下にご挨拶します。」
瓔珞(えいらく)は皇帝に挨拶しました。
李玉(りぎょく)と徳勝は部屋から出て行きました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)。不届き者め。」
乾隆帝は瓔珞(えいらく)をなじりました。
「皇帝陛下のご命令で夜伽に参りました。寒いところで待てば風邪をひきます。病人の身でお世話ができますか?私は陛下をお守りするために暖を取ったのです。妃嬪(ひひん)に冷たい皇帝と噂が立てば、陛下の体面が傷つきます。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「フン。ここをどこだと思う?」
「先の皇后様の御所です。」
「朕がそちをここへ呼んだ理由はわかるか?」
「陛下が私を辱めるためでは?」
「違う。先の皇后に見せたかったのだ。可愛がっていた女官が身分と富貴のために裏切る姿をな。」
「夜伽をせずともよいなら失礼いたします。」
「待て。」
「陛下。何でございましょうか。」
「夜伽を命じたはずだ。どこへ行く。来い。」
皇帝は手招きしました。
瓔珞(えいらく)は数歩近づきました。
「お前は朕が服を脱がせるまで待つつもりか?」
乾隆帝は言いました。
瓔珞(えいらく)は首のボタンを外しはじめました。
「お前!」
乾隆帝は上着を脱いだ瓔珞(えいらく)の姿を見て驚きました。
「陛下。先の皇后様は過去のお方です。ですが私の中では皇后様はただの主人ではなく恩師であり姉です。ゆえに喪に服しているのでございます。喪が明ける前ゆえ陛下の夜伽に応じられません。」
瓔珞(えいらく)は喪服を着ていました。
「お前はなぜ来たのだ。」
「陛下は私を欲深い女と思っておいでです。釈明はいたしません。いずれ陛下に本当のことがわかるでしょう。ここに来た理由は勅命にそむけば死罪ゆえ来るしかなかったのです。陛下がお望みならば喜んで罰を受けましょう。」
瓔珞(えいらく)は喪服姿のまま土下座しました。
「下がれ。」
乾隆帝は顔をそむけました。
「ご厚恩に感謝いたします。」
瓔珞(えいらく)は上着を持って部屋から出て行きました。
瓔珞(えいらく)の部屋。
「陛下の夜伽を拒むなんて。大した人ね。喪服を着て命がけで拒むなんて。皇后様思いね。立派よ。」
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)の飾りを取ってあげました。
「ただのバカよ。亡き人への敬意は密かに弔うものであって外見を取り繕って示すべきではない。貴人になって純潔を貫こうなんてふざけているわ。でも今夜だけは夜伽を拒まなければいけなかった。そうじゃないと私は陛下に亡き主の居所で寵愛を受けて喜ぶ恩知らずと思われる。だから陛下のお怒りを買っても夜伽はしてはいけなかったの。貴人ははじまりにすぎないわ。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「瓔珞(えいらく)。今の地位を築くまで純貴妃(じゅんきひ)様は何年も費やしたわ。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「私も気長にやるわ。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
長春館。
乾隆帝は海蘭察(ハイランチャ)を部屋に呼び瓔珞(えいらく)が池で何を企んだか尋ねました。
「陛下。瓔珞(えいらく)さんは陛下を欺くつもりはまったくありません。陛下はご慧眼をお持ちですべてをお見通しになられるため、瓔珞(えいらく)さんにすべてを白状してくるように言われました。」
「フン。世辞はいらぬ。鳳凰は想像がついた。寿の字は?」
「瓔珞(えいらく)さんの頼みで八十個の虫取り網に魚の餌を詰めました。泳ぎの得意な侍衛(しえい)が湖の底の竿につけたのです。錦鯉は餌に集まります。八十個の網は寿の形に並べました。」
「ずる賢い奴め。」
「陛下は皇太后様を喜ばせたい一心で誕辰の準備に心を砕かれました。瓔珞(えいらく)さんの目的も同じです。」
「・・・・・・。下がれ。」
「はい。」
「覚えておけ。あの者は魏貴人だ。呼び間違えるな。」
乾隆帝は海蘭察(ハイランチャ)に言いました。
感想
瓔珞(えいらく)42話の感想です。富察皇后(ふちゃこうごう)を死に追いやった犯人が純妃(じゅんひ)であると知った瓔珞(えいらく)は行動に出ました。瓔珞(えいらく)は皇太后の気を引いて何とかして紫禁城に戻ることを試みました。復讐という動機があって皇太后を褒めたたえ、作為的に気に入られたのです。
瓔珞(えいらく)を気に入った皇太后は彼女の望みを叶えてやろうとしますが乾隆帝が邪魔をします。なんだかとんとん拍子に瓔珞(えいらく)が貴人に出世して明玉(めいぎょく)まで救い出してしまいました。
都合がよすぎるお話ですが、こんな宮中にいては生きた心地がしませんね。
よく正気を保っていられるものです。
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