瓔珞(えいらく)46話 連環の計
目次
あらすじ
朝の延禧宮(えんききゅう)。瓔珞と夜を過ごした乾隆帝は宮を出て仕事に戻りました。瓔珞(えいらく)は小全子(しょうぜんし)を部屋に呼びました。魏瓔珞(ぎえいらく)は象牙色の絹の寝間着姿のままで小全子に「前になんでもすると言ったわね」と尋ねました。
三か月後。
紫禁城の一角にまだ江南の街が再現されていました。
純貴妃(じゅんきひ)は皇太后たちを街に案内すると、この三月で随所から王侯貴族から献上された品々を集めることができたと自慢しました。純貴妃(じゅんきひ)は街を神武門の外に移設して民にも開放し得られた利益を寄付すると言いました。
嫻皇后(かんこうごう)は四のつく日に市が立つのでその時に皇宮の不要な品々を売れば経費や寄付を賄うことができると言いました。
瓔珞(えいらく)は妃の姿に戻り皆と一緒に街を歩いていました。
「令嬪。酒売り女に変装した気分はどう?」
嘉嬪(かひん)金氏は瓔珞(えいらく)に尋ねました。
「独り寝のまま放っておかれるよりいいわ。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
「フン。あなたが調子に乗っていられるのは今だけよ。」
「そうできるのは無駄に生きていないからよ。一生強がれないよりマシよ。明玉(めいぎょく)。いい陶器よね。」
瓔珞(えいらく)は嘉嬪(かひん)を無視しました。
嘉嬪(かひん)は腹を立てました。
純貴妃(じゅんきひ)は琺瑯の屋台に皇太后と嫻皇后(かんこうごう)を案内しました。
すると屋台に寿康宮(じゅこうきゅう)の品が置かれていました。
純貴妃(じゅんきひ)はそんなはずはないと焦りました。
「あの指輪や如意(にょい)はなくなった調度品です!あの唾壺もそうでございます!紫禁城中を捜しましたがこんなところで売られているなんて。」
侍女の劉女官(りゅうにょかん)は皇太后に言いました。
「あれは令嬪様の品では?」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「皇后様の腕輪と耳飾りもあるわ。」
珍児(ちんじ)は指さしました。
「市というより盗賊の巣窟ね。後宮から盗まれた物ばかり。それで利を上げて赤字を補うなんて。よく考えたわね。」
嘉嬪(かひん)は言いました。
愉嬪(ゆひん)は苦々しい表情を浮かべたまま黙っていました。
「皇太后様。これはきっと誰かが盗んだ品をまぎれこませたのです。私は関わっておりません。」
純貴妃(じゅんきひ)は釈明しました。
「皇太后様。市の準備はとても忙しいのです。純貴妃(じゅんきひ)様が気づかぬのも無理はありません。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「嘘だわ。手癖の悪い太監の背後に大勢の協力者がいるはず。人目を避けて運び出すには誰かの手助けが必要よ。分け前も与える必要があるわ。純貴妃(じゅんきひ)様が盗みに関わりがあるのかと。」
嘉嬪(かひん)は言いました。
純貴妃(じゅんきひ)は嘉嬪(かひん)を睨みました。
「皇太后様。私は本当に知りません。誰がやったかしかと調べますのでお許しください。」
純貴妃(じゅんきひ)は土下座しました。
「疲れたから帰るわ。」
皇太后は明言を避けました。
「純貴妃(じゅんきひ)。詰めが甘かったわね。盗品をまぎれ込ませるとは。これが宮中の噂となればあなたの名誉が傷つくわ。しっかり調べなさい。」
嫻皇后(かんこうごう)は純貴妃(じゅんきひ)に言いました。
「はい・・・。」
純貴妃(じゅんきひ)は小さい声で答えました。
嫻皇后(かんこうごう)も帰りました。
瓔珞(えいらく)は延禧宮(えんききゅう)の物を明玉(めいぎょく)に持ち帰らせました。
「純貴妃(じゅんきひ)様。さきほどは失礼しましたでしょうか?」
瓔珞(えいらく)は純貴妃(じゅんきひ)に尋ねました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)。大した度胸ね。」
純貴妃(じゅんきひ)は瓔珞(えいらく)を憎みました。
「盗まれた品を取り戻してはいけませんか?まさか手癖の悪い太監をお飼いになられているのですか?言い間違えました。貴妃様は蘇州の才女ゆえ汚いお金には手を付けないでしょう。私は貴妃様を信じています。」
瓔珞(えいらく)は言い返しました。
「よくも・・・わかったわ。延禧宮(えんききゅう)の物はすべて持ち帰って!」
純貴妃(じゅんきひ)は言いました。
「たいへん、ありがとうございます。」
瓔珞(えいらく)はご機嫌を装い去りました。
純貴妃(じゅんきひ)は悔しくなりました。
鍾粋宮(しょうすいきゅう)。
大恥をかいた純貴妃(じゅんきひ)は頭を抱えていました。愉妃(ゆひ)が「息子の看病でご挨拶が遅れました」と言ってやって来ました。愉妃(ゆひ)は誰かが純貴妃(じゅんきひ)を陥れたのだと言いました。
純貴妃(じゅんきひ)は長年築いた名声が地に落ちたと暗い気持ちになっていました。
愉妃(ゆひ)は皇太后様と陛下は貴妃のことを信じていると言って励ましました。
純貴妃(じゅんきひ)は瓔珞(えいらく)の得意げな顔を見ると腹が立つと言いました。
愉妃(ゆひ)は「いつか私があの者をこらしめてやります」と言いました。
延禧宮(えんききゅう)。
明玉(めいぎょく)は小全子(しょうぜんし)を褒めました。
「先日、盗品の換金先をお教えしましたが、令嬪様が何のために買い戻されるのか不思議に思っていました。まさか宮中の市にお並べになられるとは。」
小全子(しょうぜんし)は主の実力に屈服しました。
「これであなたも罪滅ぼしができたわね。これからは盗んじゃダメよ?」
明玉(めいぎょく)は小全子(しょうぜんし)に言いました。
「そのような度胸は私にありません。」
小全子(しょうぜんし)は降参しました。
「小全子(しょうぜんし)。褒美よ。」
瓔珞(えいらく)は巾着を小全子(しょうぜんし)に差し出しました。
「令嬪様。ありがたき幸せにございます。令嬪様のためならどのような・・・。」
「またどんなことでもする?同じ言葉は聞き飽きたわ。安心して。あなたが忘れても私はこれからも覚えているわよ。」
瓔珞(えいらく)は小全子(しょうぜんし)に釘を刺しました。
「承知いたしました。私はこれで失礼いたします。」
小全子(しょうぜんし)は下がりました。
「瓔珞(えいらく)。盗品が市で売られていると知った時の純貴妃(じゅんきひ)の真っ青な顔は見ものだったわね。言い訳も知らないの一点張りですっきりしたわ。」
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)に言いました。
「これは手始めにすぎないわ。私の密通の噂が広まったのは嘉嬪(かひん)や純貴妃(じゅんきひ)よ。非難されることがどんな気持ちか伝わったはずよ。それより・・・。」
瓔珞(えいらく)は話題を変えました。
「三日後は命日ですからお供え物を用意するわ。ただ・・・。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「なぜ言わないの?」
瓔珞(えいらく)は尋ねました。
「傅恒(ふこう)様も長春宮にお参りに来るはずよ。出会わないように遅めに行く?」
明玉(めいぎょく)は言いました。
富察家の傅恒(ふこう)の書斎。
傅恒(ふこう)は清蓮(せいれん)に香り袋が無いか尋ねました。清蓮(せいれん)は傅恒(ふこう)が落としたので拾って汚れを取っておいたと言いました。傅恒(ふこう)は「勝手に触るな!」と清蓮(せいれん)に怒鳴ると、声を荒げたことに後悔して清蓮(せいれん)を下がらせました。
部屋に息子の福康安(フカンガ)が隠れていました。
傅恒(ふこう)は家職を呼んで福康安(フカンガ)を追い出そうとしました。
福康安(フカンガ)は嫌がりました。
傅恒(ふこう)は乳母を呼んで来るよう家職に命じ本を読み始めました。
福康安(フカンガ)はおいしそうな菓子を見つめました。
傅恒(ふこう)は福康安(フカンガ)を膝の上に乗せると菓子を与えました。
爾晴(じせい)が部屋に飛び込んで来て子を奪いました。
「私は無実の者を傷つけないし復讐もしない。ヒタラ爾晴(じせい)。しっかり母の務めを果たせ。子守りを怠るな。」
傅恒(ふこう)は爾晴(じせい)に言うと部屋から出て行きました。
傅謙(ふけん)は心配そうに爾晴(じせい)のもとに駆け寄りました。
爾晴(じせい)は傅謙(ふけん)を無視して自室に戻りました。
夜。
「若様は人柄も家柄も申し分ありません。戦功をあげて昇進なさいました。誰もが夫人を羨みます。過去に何があったか知りませんが、お坊ちゃまのためにも過去を水に流して幸せになられてはどうですか?お坊ちゃまへの接し方を見る限り関係の修復はまだ間に合います。よくお考えください。若様に嫁ぎたいおなごはたくさんいます。夫人の座を明け渡していいのですか?」
爾晴(じせい)は清蓮(せいれん)が言った言葉を思い出していました。
爾晴(じせい)は傅恒(ふこう)から貰った簪を手に持ちました。
傅恒(ふこう)の寝室。
薄着姿の爾晴(じせい)が背後から傅恒(ふこう)に抱き着きました。
傅恒(ふこう)は立ちあがって拒絶しました。
「かつてのあなたは魏瓔珞(ぎえいらく)のことしか頭になかった。あの者は令嬪となりあなたの望みは絶たれた。私が意地を張っていたらあなたを他の女に差し出すのも同然よ。世間に笑われるわ。」
「何を言っているのかわからない。」
「傅恒(ふこう)。間違っていた。あなたを理解しようとしなかったの。戦場にいるあなたは嫌だったけどずっと待っていたの。早く会いたくて。どれほど憎まれようとも恋しかった。」
爾晴(じせい)は髪を振り乱して傅恒(ふこう)の肩に手を回しました。
「何がしたいのだ?」
「傷つけられたことへの復讐は果たしたわ。傅恒(ふこう)。仲直りをして幸せに暮らしたい。約束するわ。これからは自重する。富察家の妻として務めを果たすわ。義母上のお世話もする。夫人同士の交流もやめて情報を流さない。何でも言うことを聞くわ。お願い。私を赦して。あの子には、あの子には優しくしてくれた。あなたと私の息子を産ませて欲しいの。お願い。」
「ヒタラ爾晴(じせい)。そなたの望み通りにはいかぬ。お前の望みはあらゆる者を苦しめた。今更後悔しても埋め合わせはできぬ。聞くがよい。そなたは道を踏み外した。もう富察傅恒(ふちゃふこう)の妻ではない。」
傅恒(ふこう)は爾晴(じせい)の手を振り払い部屋から出て行きました。
「傅恒(ふこう)!傅恒(ふこう)!嘘でしょ。赦されるはずよ。絶対に赦してもらうわ!」
爾晴(じせい)は叫びました。
富察家の庭。
「雪の日はお似合いだったわ・・・。私は誓ったの。あなたとは二度と何の関わりも持たないと。」
傅恒(ふこう)は瓔珞(えいらく)が言った言葉を思い出して苦しみました。
「若様。風が出て来ました。」
清蓮(せいれん)は傅恒(ふこう)に外套をかけてあげました。
「清蓮(せいれん)。私はおかしいか?三年が経ち、彼女は妃嬪(ひひん)となったのに私は忘れられない。」
「若様。若様は過去に生きておいでです。半年もたたぬうちに高位になられた令嬪様は時流が読めるのだと思います。聡明なお方です。過去にしがみつかずに前だけを見ていらっしゃいます。」
「その通りだ。瓔珞(えいらく)は前しか見ない。」
「そのような方は無情です。美しい思い出は捨てましょう。思い出だけでなく人も捨てましょう。」
「つまり私も、捨てられたのか?」
「いいえ。若様は過去の夢からお目覚めにならないだけです。若様は古い物に愛着を抱かれています。硯は兵書、着古した服まで大切に保管されています。若様が思い出に浸るなら構いません。ですが若様は理想が高く自分に厳しすぎます。」
「清蓮(せいれん)。私を罵っているのか?」
「とんでもございません。若様は長い行軍の途中で疲れ切っていても奏上をしたためるために徹夜なさると聞いています。見かねた陛下から夜の書き物を禁じられたと聞いています。そのような志が高い方なら情愛も妥協なさらないはずです。」
「褒め過ぎだぞ。」
「いずれにしても、私にとって若様は世の中で一番の善人です。」
「明日は姉上の命日だ。準備を頼む。」
傅恒(ふこう)は清蓮(せいれん)に命じました。
「はい。若様。夜も更けました。お休みなさいませ。」
清蓮(せいれん)は仕事に戻りました。
翌日の紫禁城。
富察皇后の霊がまつられている長春宮。
傅恒(ふこう)は姉の遺影に線香を捧げて何度も拝礼しました。
「姉上。姉上の予想通りになりました・・・・・。」
傅恒(ふこう)は姉の霊に話しかけると霊廟を後にしました。
すると、門を出たところで新入りの太監が誤って傅恒(ふこう)に供物の水を掛けてしまいました。
侍女は太監を叱りました。
「まだ子どもだ。許してやれ。」
傅恒(ふこう)は女官に言いました。
女官は服の汚れた部分だけを洗うと言いました。
傅恒(ふこう)は長春宮で衣を脱ぎました。
女官が洗った服を持って来ました。
女官は先ほどの小路子(ショウローツ)という名の太監を呼んで着替えを手伝わせました。
傅恒(ふこう)は着替えました。
「お供えの汁物をこぼせば死罪になる。このことは口外するな。ここでは何事も慎重にな。子どもでも許してもらえぬ。」
傅恒(ふこう)は小路子を赦しました。
「お待ちください。やはり来ていたのね。」
瓔珞(えいらく)は傅恒(ふこう)に呼びかけました。
「養心殿に参ります。失礼します。」
傅恒(ふこう)は丁寧に礼をしました。
「待って。」
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)に外で見張りをするように命じました。
明玉(めいぎょく)は少しだけだと言って外に出て行きました。
「なぜ都に戻って来たの?」
「なぜあなたが入内したいか知りたい。目的があるのでは?」
「入内した目的が知りたいの?傅恒(ふこう)。勝手な憶測はやめて。円明園での生活に飽きたからよ。私は卑しい女官のままで終わらない。一生奴婢でいるのは嫌よ。」
「可能性は二つだ。姉上の死の真相を確かめるため。」
「富察皇后はご自害なさった。他の意図はないわ。」
「私への当てつけか?」
「何を言うの?」
「瓔珞(えいらく)。私が憎いだろ。」
「いいえ。」
「あなたを娶ると誓ったのに、ヒタラ氏を娶った。あなたの性格なら生涯私を赦さぬはずだ。」
「うぬぼれないで。皆のことなどもう忘れたわ。」
「私に罵声も浴びせずに終わるはずがない。瓔珞(えいらく)。私はあなたを知り過ぎている。あなたは泣き寝入りはしない。責めるつもりはない。私が招いた因果ゆえ、受け入れる。」
「傅恒(ふこう)。都を離れたら?陰謀渦巻く紫禁城は危険だわ。あなたには戦場が似合う。手柄を立てれば野心も致される。都から、去って。」
「あなたが心配だ。都にいればあなたをいつでも助けてやれる。瓔珞(えいらく)。何を企んでいるか知らぬが覚えておいてくれ。あなたが幸せをつかんで意のままに生きること。それが姉上の願いだ。誰の犠牲にもなるな。自分の幸せだけを求めろ。困った時に知らせてくれたらいつでも駆け付ける。一人で闘うな。あなたは人間だ。神じゃない。」
傅恒(ふこう)は言いました。
「だから言ったでしょう?あいびきしてるのよ。」
嘉嬪(かひん)が乾隆帝たちを連れて長春宮に現れました。
瓔珞(えいらく)と傅恒(ふこう)は乾隆帝に挨拶しました。
「二人の仲は以前から噂されています。令嬪は入内しても未練を断ち切れないようですわ。」
嘉嬪(かひん)は皇帝に言いました。
「嘉嬪(かひん)様。誤解です。令嬪様と傅恒(ふこう)様は偶然居合わせたのです。」
明玉(めいぎょく)は嘉嬪(かひん)に釈明しました。
「随分都合のいい偶然ね。約束してたんでしょ。陛下。皇后様を弔う日に長春宮であいびきとは。不届きにもほどがあります。」
嘉嬪(かひん)は皇帝に言いました。
「あいびき?私たちは何かしていましたか?話をしただけでなぜあいびきと?紫禁城にいる女官や太監は皆死罪ですか?」
瓔珞(えいらく)は嘉嬪(かひん)に言い返しました。
「陛下はあなたに甘いから言い逃れができると思いこの場所を選んだのでしょ?陛下。信じてはなりません。二人の交際は以前から続いています。」
嘉嬪(かひん)は言いました。
乾隆帝は瓔珞(えいらく)の前まで歩みをすすめました。
「偶然という以外に言い訳はあるか?」
乾隆帝は瓔珞(えいらく)に尋ねました。
「ありません。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)よ・・・。」
乾隆帝は言い掛けました。
「陛下。私は姉上を弔いに来ましたが衣を汚され離れるのが遅れました。亡き皇后様の話をしていただけです。」
傅恒(ふこう)は釈明しました。
「朕はお前には聞いておらぬ。」
乾隆帝は言いました。
「陛下。」
傅恒(ふこう)が跪くと何かが床に落ちました。
嘉嬪(かひん)は思い通りになったとほくそ笑みました。
「すべて正直に話しました。陛下がお信じになられないならそれがすべてです。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
乾隆帝はがっかりして帰ろうとしました。
「これは何なの?」
嘉嬪(かひん)は傅恒(ふこう)の衣から落ちた女物の簪を拾いました。
「簪ですね。令嬪様のお気に入りでは?梔子の花をあしらったものは珍しい。」
蘭児(らんじ)は言いました。
「言い逃れはできないわね。証拠が出た以上もうごまかせません。」
嘉嬪(かひん)は言いました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)。どういうことだ?」
乾隆帝は振り返りました。
「陛下。それは紛失していたものでございます。何者かの罠にはめられたのです。」
明玉(めいぎょく)は答えました。
「先ほどの太監は?翡翠。連れて来い。」
傅恒(ふこう)は言いました。
翡翠は出て行きました。
「陛下。その簪は着替えを手伝った太監が私の衣に仕込んだのです。」
傅恒(ふこう)は言いました。
「ずいぶんお早い言い訳だこと。罠を仕掛けた者が事前に簪を盗むとか?そこまで手の込んだことをするかしら?」
嘉嬪(かひん)は皇帝に言いました。
「私は令嬪様の簪など知りません。」
小路子が戻って来て土下座しました。
「嘉嬪(かひん)。芝居が下手すぎて見てられないわ。小全子(しょうぜんし)をここへ。話して。言わないとどうなるか知らないわよ。」
瓔珞(えいらく)は命じました。
すぐに小全子(しょうぜんし)が駆け付け土下座しまた。
「陛下。これは嘉嬪(かひん)様の陰謀でございます。私は令嬪様の簪を盗むように命じられ、欲に目がくらんで過ちを犯してしまいました。どうかお許しくださいませ!」
小全子(しょうぜんし)は謝りました。
慌てた嘉嬪(かひん)は太監のいう事を聞いてはならないと皇帝に訴えました。
過去。
「正直に白状しなければあなたを純貴妃(じゅんきひ)のところへ送り込むわよ。純貴妃(じゅんきひ)があなたの悪行を知ったらとても喜んであなたに罪をかぶせるはず。」
瓔珞(えいらく)は小全子(しょうぜんし)に言いました。
「令嬪様。私は令嬪様のお命じの通りに動いたのに私を敵に売り渡すのですか?」
小全子(しょうぜんし)は言いました。
「あなたは儲秀宮(ちょしゅうきゅう)い協力していた。そんな恩知らずを守る価値がない。」
「令嬪様。連環計を使うのですか?」
「よく考えなさい。」
「陛下。これは本当に嘉嬪(かひん)様の陰謀です。私の欲深さに付け入り簪を盗ませましたが令嬪様が赦してくださったので白状しているのです。陛下。どうか信じてください。嘉嬪(かひん)様から頂戴した金子は私の寝床の下にあります。侍女の蘭児(らんじ)も知っているはずです。蘭児(らんじ)を問いただせばわかるはずです。」
小全子(しょうぜんし)は訴えました。
蘭児(らんじ)は釈明できずに土下座しました。
「本日より、嘉嬪(かひん)を儲秀宮(ちょしゅうきゅう)に幽閉する。許可なく離れるな。」
乾隆帝は嘉嬪(かひん)の頬を叩きました。
「陛下。陛下。私が悪うございました。」
嘉嬪(かひん)は罪を認めましたが乾隆帝は部屋から出て行きました。
「魏瓔珞(ぎえいらく)。私を陥れたわね。」
嘉嬪(かひん)は瓔珞(えいらく)を睨みました。
「どっちがどっちを陥れたのかしら?」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「卑怯者。いつ気づいたの?」
嘉嬪(かひん)は尋ねました。
「延禧宮(えんききゅう)から盗まれた物の中に手巾(てきん)があったわ。それでわかったの。あいびきの証拠に盗品を使おうとしていると。だから小全子(しょうぜんし)をとどまらせてあなたを釣ったの。あなたには礼を言うわ。小全子(しょうぜんし)は抜け目がない。いい人材を見つけてくれたわ。」
「あなたは私に勝ったつもり?言っておくけど、陛下はあいびきを目撃なさったわ。あなったのことも疎んじるはずよ。魏瓔珞(ぎえいらく)。あなたは再起できないわ。ハハハハハハ。」
夜の養心殿。
乾隆帝は筆をしたためている途中で紙を丸めて投げ捨てました。
李玉(りぎょく)の顔に墨がかかりました。
部屋の外。
李玉(りぎょく)は顔を洗うため徳勝に水を持って来てもらいました。徳勝はまだ皇帝が怒っているのか李玉(りぎょく)に尋ねました。李玉(りぎょく)は傅恒(ふこう)が瓔珞(えいらく)を娶ろうとしたことも事実だから二人が会っているところを見て平気なはずがないと言いました。
ある日の延禧宮(えんききゅう)。
明玉(めいぎょく)は従者たちにお湯も沸いていないと呼びかけましたが、誰も来ませんでした。しばらくして珍珠(ちんじゅ)が裏で洗濯をしていたと慌ててやって来ました。
「偏殿(へんでん)にも厨房にも誰もいないわ。他の者は一体どこに行ったの?」
明玉(めいぎょく)は怒りました。
「明玉(めいぎょく)さん。みんな内務府に駆り出されました。鍾粋宮(しょうすいきゅう)の屋根の修理や承乾宮や御花園(ぎょかえん)の掃除を。人手が足りないそうです。」
小全子(しょうぜんし)が疲れた様子でやって来ました。
「陛下が令嬪様に冷たいのでみんな活路を探しているのです。」
小全子(しょうぜんし)は言いました。
感想
瓔珞(えいらく)46話の感想です。瓔珞(えいらく)は小全子(しょうぜんし)の盗みを利用して純貴妃(じゅんきひ)に復讐の手始めとして名誉を失墜させました。そして攻撃的な嘉嬪(かひん)の陰謀を明らかにして蟄居に追い込みました。ところが乾隆帝は噂を信じているわけではないものの、傅恒(ふこう)と瓔珞(えいらく)の過去を思い出して瓔珞(えいらく)を訪ねなくなってしまいました。
という話なんですが、一体乾隆帝は瓔珞(えいらく)のことを何だと思っているのかさっぱりわかりません。
乾隆帝本人はただのおなごの一人と頭で考えているようですが、瓔珞(えいらく)に対して意地悪をしたかと思えば厚遇したり、滅茶苦茶です。
傅恒(ふこう)は別れてからも瓔珞(えいらく)のことを愛しているようです。しかし瓔珞(えいらく)はその愛には応えませんし、もうそんな逃避行は無理なところにいます。
では、瓔珞(えいらく)は乾隆帝を愛しているのかについてはそんな様子が描かれた場面が無いので与えられた役をこなしているだけといったところでしょうか。
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