瓔珞(えいらく)51話 乱心の裏で
目次
あらすじ
嫻皇后(かんこうごう)は救済米の配給所の実情は役人が地元の豪商から銀子を搾取して粥を草木でかさ増しして米を抜き取っているが、父那爾布(ナルブ)は地元の有力者の家を一軒ずつ訪ね回って協力を求めたが資金が集まらなかったので自分の給金や陛下から賜った田畑や屋敷や先祖代々からの故郷の屋敷を売り払って救済に当てていたと皇帝に釈明しました。そして那爾布(ナルブ)は暴動の鎮圧に兵を使うことをためらい逆に襲われたので騒ぎが激化したと訴えました。
「父は無能ですか?いいえ。民のことを考えたのです。」
「朕もわかっている。」
「陛下。陛下のお立場を思えば父を裁くなとは言いません。でも命だけはお助け下さい。陛下。後生でございます。父をお助けください。」
嫻皇后(かんこうごう)は大粒の涙をこぼしました。
乾隆帝は嫻皇后(かんこうごう)に手を差し伸べました。
「陛下。お願いでございます。」
嫻皇后(かんこうごう)は乾隆帝の手に自分の手を乗せました。
「よかろう。朕は、約束しよう。立たれよ。」
乾隆帝は嫻皇后(かんこうごう)を支えました。
嫻皇后(かんこうごう)は立ちあがることもできなくなっていました。
皇宮の一角。
嫻皇后(かんこうごう)は那爾布(ナルブ)のもとへ勅命を運んでいる弘昼(こうちゅう)を呼びとめました。弘昼(こうちゅう)は那爾布(ナルブ)を守れなかったことを謝罪しました。嫻皇后(かんこうごう)は奔走してくれた弘昼(こうちゅう)に礼を言いました。
嫻皇后(かんこうごう)は父の流刑先である寧古塔(ねいことう)は寒いので衣と薬を弘昼(こうちゅう)に預けました。
「私が届けられない不幸を詫びてちょうだい。お体を大事にと。」
嫻皇后(かんこうごう)は弘昼(こうちゅう)に言いました。
牢獄。
弘昼(こうちゅう)がよい知らせを持って来ましたが、那爾布(ナルブ)は自害して亡くなっていました。
承乾宮。
嫻皇后(かんこうごう)は心を閉ざしました。
乾隆帝は皇后を見舞い、葬儀を皇后が主催することを赦しました。
「陛下が那爾布(ナルブ)を?」
嫻皇后(かんこうごう)は尋ねました。
「違う。」
乾隆帝は答えました。
「では皇太后様が?」
嫻皇后(かんこうごう)が尋ねると、李玉(りぎょく)の身体が固まりました。
「皇后。そなたの父は自害したのだ。」
乾隆帝は言いました。
「父は愚かなほど善良ですが自らの命を失うことをとても恐れていました。生き延びるためには娘にも土下座した。無実の罪を問われて自害するなんてあり得ません。」
「皇后。死者は還らぬ。これ以上追及しても無駄だ。」
「陛下。父は無実の罪で不正官吏と罵られ自害したことにされました。娘の私が抗議することも許されぬのですか?救済米を盗むどころか全財産を投げ打った父が、命で償わされたのです。二十年間真面目に佐領を務めながらも最後は地位も名誉も失い非業の死を遂げたのです。これが公明正大なお裁きといえるのでしょうか?」
「皇后。朕にはそなたの嘆きがわかる。だがそなたは皇太后を責めるな。」
「陛下。皇太后様に私心が無いとお思いでしょうか?」
「皇后。そなたが悲嘆していても皇太后に無礼は赦されぬぞ。」
「ふっ。皇太后様の甥御も不正に関わり、皇太后様の兄嫁様が宮中に斟酌(しんしゃく)を願い出ています。皇太后様のご実家が罪に問われることを避けるために父に濡れ衣を着せたのです。」
「黙られよ。」
乾隆帝は言いました。
珍児(ちんじ)もそれ以上言わないように頼みました。
「陛下は私の話を聞くのが怖いのですか?」
「まだ言いたいことがあるなら申せ。」
「陛下。官吏は凡庸なくせに狡猾です。見かけは華やかな後宮と同じように官吏も芝居をしています。公明正大な繁栄の世の裏で陛下を騙しているのです。陛下がいくら政務に励まれ用途も無実の者を救うことも不正を正すこともできません。」
嫻皇后(かんこうごう)は目に涙を浮かべていました。
「李玉(りぎょく)。皇后は病だ。太医に診せよ。」
「陛下は怖いのですね。」
「皇后。天下は思い通りにならぬ。家族の不幸に免じて今回だけは赦そう。だが今後慎まぬならただではおかぬぞ。」
乾隆帝は去りました。
通路。
太監は和親王弘昼(こうちゅう)に何日も寝てないので休むよう頼みました。
弘昼(こうちゅう)は皆が事件の発覚をおそれて口封じしただけだと言いました。
珍児(ちんじ)は偶然弘昼(こうちゅう)に会いました。
「実は、内務府に物を取りに行くところなんです。」
珍児(ちんじ)は言いました。
和親王は珍児(ちんじ)の手を引っ張り皇后に何があったのか尋ねました。
珍児(ちんじ)は皇后様の姿が見えなくなったが誰にも言えないので一人で捜していると答えました。
和親王も嫻皇后(かんこうごう)を捜しに行きました。
日が暮れ夜になりました。
弘昼(こうちゅう)は塀の上に嫻皇后(かんこうごう)が立っていることに気が付きました。
「皇后様。危険です。降りてください。」
「私が落ちると思ったの?ハハハ。」
「何をなさるつもりです。」
「一日中ここにいたわ。遠くの景色を見たら、富察容音(ふちゃようおん)がここに立った時の気持ちを知りたくなった。だから塀の上に上ってみたの。富察容音(ふちゃようおん)と私は、宝親王府に入った時期が近いの。あの人は上品で慎ましやかな嫡福晋(ふくしん)。私は自分の立場に忠実な側福晋(ふくしん)。似ていたけど違ったところもあったわ。私もあの人も夫に心を捧げる妻だった。でもあの人はここから飛び降り私は皇后に登り詰めた。」
「もう昔の事です。あなたは富察容音(ふちゃようおん)と違う。」
「そうよ。私は飛び降りようとは思わない。なぜだかわかるかしら?納得できないからよ。私は清の女主だと思ってた。二度と人から侮られないと思っていた。嫻妃(かんひ)だった頃は母と弟を守れなかった。皇后になっても父を守れない。私の持つ力は小さすぎる。とても。」
「いいえ。違います。あなたは陛下の誠意を信じて弁えを守ったのです。皇后様。こちらへおいでください。」
弘昼(こうちゅう)は手を差し伸べました。
「わが心は君に同じくして碧空より雲が去るのを待つのみ。帰るわ。」
嫻皇后(かんこうごう)は両手を拡げ何かを決意しました。
「皇后様。私に何なりとお申し付けください。お力になりたいです。」
弘昼(こうちゅう)は皇后の背に言いました。
夜中の承乾宮。
乾隆帝が心配してやって来ました。
珍児(ちんじ)は皇帝に皇后がとても後悔していると説明しました。
乾隆帝は皇后には会わずに帰りました。
珍児(ちんじ)が部屋に入って来ました。
「陛下は私をお咎めになることはないわ。後ろめたいからよ。世の中がおかしくなっても私だけは冷静よ。父の死に顔色ひとつ変えなかったらそれこそおかしいでしょ。慎み深く己の立場をわきまえる者が逸すれば大きな効き目がある。私の無念と怒りは陛下のお心に刻まれ後宮中の記憶に残るわ。」
嫻皇后(かんこうごう)は珍児(ちんじ)に言いました。
侍女が皇帝から預かった物を持って来ました。
「崇禎帝(すうていてい)と不仲になった周皇后は食を断って抗議したわ。崇禎帝(すうていてい)は古い毛皮の褥(しとね=敷物)を贈り仲直りしたそうよ。陛下が古い衣を届けさせたのも、今回の私の屈辱もこれまでの情も忘れないという意味よ。」
乾隆帝は言いました。
「なのにどうして和親王にお知らせになるのですか?」
珍児(ちんじ)は尋ねました。
「和親王(わしんのう)はやりたい放題の人のように見えても人情や誠意を重んじる人よ。味方にするには頭を使わないとね。」
嫻皇后(かんこうごう)は言いました。
「皇后様。それではお心を痛めておられないのですか?」
「今更痛めて何になるというの?それよりも利を得るためにこの機会を利用すべきだわ。わかった?下がっていいわよ。」
嫻皇后(かんこうごう)は珍児(ちんじ)を下がらせました。
日中の延禧宮(えんききゅう)。
愉妃(ゆひ)珂里葉特(けりえて)氏は第五皇子を連れて訪ねて来ました。第五皇子永琪(えいき)は「令義母上の御健康を祈ります」と丁寧にあいさつをしました。
「永琪(えいき)。金瞳(きんどう)で生まれたあなたを誰もが不吉と思ったわ。令妃(れいひ)がかばってくださらなかったから今のお前があるのよ。」
愉妃(ゆひ)は言いました。
「この御恩は一生忘れません。大人になったら義母上様に孝行します。」
永琪(えいき)は跪いて礼を言いました。
瓔珞(えいらく)は永琪(えいき)を立たせて話しかけました。
「母にとって一番大切なのはあなたよ。孝行しなさいね。」
瓔珞(えいらく)は永琪(えいき)に言いました。
永琪(えいき)は令妃(れいひ)様にも孝行しますと言いました。
「孝行は実の皇子様のお務めです。お忘れなきよう。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
「明玉(めいぎょく)。冷たいわね。」
愉妃(ゆひ)は言いました。
「手を噛まれないように気を付けないと。尾を振っていても信用できませんわ。」
明玉(めいぎょく)は言いました。
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)を下がらせました。
「明玉(めいぎょく)ったら。いつまで経ってもあの性格は変わらないわね。」
愉妃(ゆひ)は瓔珞(えいらく)に言いました。
門。
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)に取り入る愉妃(ゆひ)と、愉妃(ゆひ)に親切にする瓔珞(えいらく)に納得がいきませんでした。明玉(めいぎょく)は門扉を蹴って不満を表しました。
海蘭察(ハイランチャ)がやって来ました。
「信じられる?瓔珞(えいらく)は愉妃(ゆひ)を赦したのよ。」
明玉(めいぎょく)は海蘭察(ハイランチャ)に言いました。
「また不仲になれと言うのか?令妃(れいひ)は第五皇子を救ったお人だぞ。皇子を母のない子にできないだろ。」
「昔の瓔珞(えいらく)は敵を絶対許さなかったけど今では敵と歓談しているのよ。」
「成長したんだよ。明玉(めいぎょく)もそうだろ?前のあなただったらとっくに愉妃(ゆひ)たちを追い出している。」
「笑顔で迎えるなんて無理よ。」
「それはあなたが正直だからだよ。令妃(れいひ)にも考えがあるのだろう。純貴妃(じゅんきひ)の正体を探るつもりなのだろう。敵に近くなるほど情報が得られるからな。早く戻れよ。令妃(れいひ)様がご心配なさる。」
「年下のくせに無礼ね!」
「なぜわかる?ああ、調べたんだな。」
海蘭察(ハイランチャ)が言うと、明玉(めいぎょく)は部屋に戻りました。
葉天士(ようてんし)は瓔珞(えいらく)に薬を処方しました。瓔珞(えいらく)は腕の添え木を外すところまで回復しました。瓔珞は腕が少し自由になって喜びました。
明玉(めいぎょく)は庭で水やりをしていました。
「まだ怒っているの?」
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)に話しかけました。
「怒ってないわ。」
「それなら内務府に行って取って来てもらいたいものがあるの。」
夜。
瓔珞(えいらく)はオルゴールの音に合わせて明玉(めいぎょく)と西洋の踊りを真似て遊んでいました。
乾隆帝が訪ねて来ました。
瓔珞(えいらく)はフランスの宣教師に舞踏の手本を見せてもらったと皇帝の問いに答えました。
乾隆帝は宣教師は暦の作り方や武器の製造方法を学ぶために雇った者だと言いました。
瓔珞(えいらく)は乾隆帝を踊り(社交ダンス)に誘いました。
乾隆帝と瓔珞は抱き合うような格好でワルツを舞いました。
李玉(りぎょく)は明玉(めいぎょく)に皇帝の機嫌が治ったと言って令妃(れいひ)を褒めました。
「痛むのだな?」
「いいえ。陛下を喜ばせたくて。うふっ。」
「左足からだ。これでいいか?」
屋上の東屋。
「瓔珞。殺さなければならない者がいたらどうする?」
「殺します。」
「冤罪だとしたら?」
「釈放します。」
「その者に罪はない。だが大局を見ると殺すべきだ。」
「殺して赦します。」
「公式には殺したことにして替え玉を用意します。容姿が似た死刑囚とすりかえてはどうですか?」
「フン。市場の野菜ではないぞ。本人であるという証明が必要だ。」
「那爾布(ナルブ)殿のことですよね。殺すつもりだったのですか?」
「いや。考えたこともない。」
「恩赦を与えて流刑に減刑したとしても流刑地までの道中で殺すこともできます。殺せる隙を与えたことは陛下は生かすつもりがなかったのでは?もしかして当たりですか?陛下は私の口封じをするのですか!?陛下!」
瓔珞(えいらく)が言うと、乾隆帝は瓔珞(えいらく)を脅かしました。
「那爾布(ナルブ)は不正をしていない。だが状況を見誤ったのは朕だ。浙東(せっとう)の状況はどこも同じだが那爾布(ナルブ)が担当した以外の処では暴動も餓死も起きていない。無能な官吏の害は不正役人以上になることもある。朕は皇后に免じて那爾布(ナルブ)に尊厳ある死を与えるため流刑に減じた。だが皇太后に先を越されるとは思ってもみなかった。瓔珞。そなたはどう思う?朕は残酷な君主か?」
「はい。でもそれがどうしたのです?完璧な君主になることなど不可能です。不正官吏も並みの官吏も陛下を恨みます。誰に恨まれても後悔すべきではありません。」
瓔珞は皇帝を励ましました。
日中の延禧宮(えんききゅう)。
瓔珞(えいらく)は負傷した腕で筆を持とうとして腕が痛くなりました。
「妃嬪(ひひん)は病でも陛下の機嫌を取るわ。それが務めだからよ。」
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)に言いました。
明玉(めいぎょく)は瓔珞(えいらく)を椅子で休ませると葉天士を呼びに行きました。
「強がりすぎるからだ。手を貸せ。」
袁春望(えんしゅんぼう)が現れました。
「兄さん。あなたはなぜここに?」
「令嬪様のくせに私を兄さんと呼ぶなよ。恐れ多いぞ。」
「何になっても兄さんだから。」
「分かったから令嬪様、座ってください。天罰だ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)の腕を回しました。
「気持ちいい。」
「赦したわけじゃないぞ。半年間怒ってた。贈り物は届いたが挨拶にも来なかった。」
「兄さんが怒ると思って行かなかったの。」
「浄土でも極楽でも一緒だと約束しただろ?決めたからな。延禧宮(えんききゅう)に入りお前のそばで大総管になる。どうだ?」
「もちろんよ。」
「令嬪様。人前では兄さんと呼ぶなよ。名前で呼べ。この疫病神め。」
「兄さんは私にとって福の神だわ。」
宮中の通路。
嫻皇貴妃(かんこうきひ)は輿で移動していました。
「皇后様。皇后様。お助けください。死んでしまいます!皇后様。私は長春宮に仕えておりましたが過ちを犯して辛者庫(しんじゃこ)送りとなり苦役を強いられています。皇后様。どうかお助けください!」
辛者庫(しんじゃこ)の琥珀が嫻皇后(かんこうごう)に訴えました。
珍児(ちんじ)は嫻皇后(かんこうごう)に前の皇后に仕えていた琥珀だと説明しました。
嫻皇后(かんこうごう)は琥珀の訴えを赦しました。
「皇后様。この者は延禧宮(えんききゅう)で令嬪様に無礼を働いたのです。辛者庫(しんじゃこ)でもろくに働きません。後で罰しますので皇后様お赦しください。」
上司の女官は謝りました。
嫻皇后(かんこうごう)は琥珀の仕事を軽くするように命じました。
「皇后様!皇后様!ここから出してください!」
琥珀は叫びましたが嫻皇后(かんこうごう)が乗った輿は行ってしまいました。
「いくら皇后様でもあなたを助けることはできないわ!」
上司は暴れる琥珀を押さえました。
延禧宮(えんききゅう)。
愉妃(ゆひ)の息子、永琪(えいき)は瓔珞(えいらく)の回復を祝って一人で挨拶に来ました。明玉(めいぎょく)は仏頂面のまま部屋を離れました。
「明玉(めいぎょく)は私が嫌いなようですね。」
「そうよ。」
「普通はそんなことはないと言うのではありませんか?」
「嘘をつけと?」
「宮中では皆そうしています。」
「私はそうはしないわ。座って。食べなさい。明玉(めいぎょく)が作った菓子を食べたいのでしょ?」
瓔珞(えいらく)は永琪(えいき)の世話をしました。
「黙って手を出せばお行儀が悪いです。」
「どうぞ。食べていいわよ。おいしい?」
瓔珞(えいらく)は菓子を食べさせました。
「永琪(えいき)や。咳に甘い物はよくないわよ。ひとつにしなさい。」
「うん。」
永琪(えいき)は瓔珞(えいらく)の口元に菓子を差し出しました。
縁の下。
永琪(えいき)が帰り、瓔珞(えいらく)は縁の下で明玉(めいぎょく)と囲碁をしていました。
「茶がぬるいわよ。」
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)に茶を取りに行かせました。明玉(めいぎょく)がいなくなった隙に瓔珞(えいらく)は白い碁石を盗んで横に立っていた袁春望(えんしゅんぼう)に預けました。
明玉(めいぎょく)は戻って来て大局を再開しました。明玉(めいぎょく)は難しそうな表情で碁を打ちました。
とうとう我慢できなくなり瓔珞(えいらく)が笑いだしました。
「お前気づかないのか?碁石が二つもなくなったんだぞ!」
袁春望(えんしゅんぼう)は明玉(めいぎょく)に言いました。
「瓔珞(えいらく)。ずるをしたわね。この前も陛下の碁石を隠して怒られたじゃない!」
明玉(めいぎょく)は怒りました。
「明玉(めいぎょく)が怒った顔を見るのが楽しいの。」
「おかしな趣味ね!」
「たとえ変でも堅物をからかうのは面白いわ。」
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)の頬をつねろうとしました。
「人が来たぞ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は瓔珞(えいらく)に注意しました。
李玉(りぎょく)が来て令嬪にすぐに永和宮に行くよう命令を伝えました。
明玉(めいぎょく)が一緒に行こうとすると、袁春望(えんしゅんぼう)は自分が付きそうと申し出ました。
明玉(めいぎょく)は留守番することにしました。
永和宮。
瓔珞(えいらく)は永和宮を訪ねました。
乾隆帝と嫻皇后(かんこうごう)、純貴妃(じゅんきひ)と愉妃(ゆひ)が永琪(えいき)を見守っていました。
永琪(えいき)は床に伏せっていました。
愉妃(ゆひ)は怒り心頭で瓔珞(えいらく)が永琪(えいき)を殺そうとしたと訴えました。
「令妃(れいひ)。永琪(えいき)が延禧宮(えんききゅう)を訪ねたそうね。」
純貴妃は冷たく言いました。
「そうです。愉妃(ゆひ)が永琪(えいき)に霊芝と鹿茸(ろくじょう)を届けに来させたのです。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
「何か与えたのでは?」
純貴妃(じゅんきひ)は言いました。
「芙蓉糕(ふようこう)をあげました。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
「やっぱりね。劉太医。」
純貴妃(じゅんきひ)は言いました。
「令妃(れいひ)様。第五皇子様はここ数日咳がひどく川貝(せんばい)を草烏(そうう)、川烏(せんう)、附子など烏頭類の薬とともに服用することは禁忌です。薬性が相克し中毒を起こします。全身のまひや痛みだけでなく死に至る場合もございます。第五皇子様の脈には草烏(そうう)の中毒症状が出ています。」
劉侍医は答えました。
「芙蓉糕(ふようこう)に草烏(そうう)が入っていたからではありませんか?令妃(れいひ)が知っているはずです。」
純妃(じゅんひ)は言いました。
感想
瓔珞(えいらく)51話の感想です。嫻皇后(かんこうごう)の父、那爾布(ナルブ)を処刑せよと皇太后が政治に介入しました。なぜなら皇太后の一族や他の皇族も救済米を横領していたからです。しかし乾隆帝は無実の那爾布を守ろうとしましたが、那爾布は自害したのか殺されたのか、死んでしまいました。乾隆帝が関係者のすべての処刑を試みると立場が危うくなることを意味していました。それは権力の恩恵を受けている者たちが法を尊び国家に忠誠を誓っている善人ではなくむしろその逆だからでした。
このドラマでは忠臣は富察傅恒(フチャふこう)や海蘭察(ハイランチャ)くらいしかいなくて他の者は国の禄をむさぼり民を搾取している極悪人として描かれています。当時はその悪党こそが善であり正義であったとこのドラマは示唆しています。しかしこれは当時だけのものではなく現代でも不変の現象です。だからこそドラマが視聴者に受けるわけで、ドラマの人気の高さの背景に汚職官僚やお金持ちへの怒りがあると思われます。
瓔珞(えいらく)は愉妃(ゆひ)を味方につけ、嫻皇后(かんこうごう)は弘昼(こうちゅう)を味方につけようとしています。
天涯孤独となった嫻皇后(かんこうごう)には頼れる者は自分自身しかありません。珍児(ちんじ)は力のない奴婢ですし。実家のことはどうなってるか知りませんが、他の貴族たちが横領米を持っているから、そのことを隠そうとして那爾布(ナルブ)を殺せと訴えたのです。だから救済米を盗んだ官吏や皇族たちにとって那爾布(ナルブ)は殺すべき悪であり、那爾布(ナルブ)を悪者に仕立てることで自分たちが罪から逃れようとしたのです。
嫻皇后(かんこうごう)には同情すべきところもありますが・・・。追い詰められるとまた暴走しちゃいそうですね。
瓔珞(えいらく)には自分を捨てた薄情な父や親戚がいますので、まったく孤独ということではないものの、精神的にはひとりぼっちも同然です。明玉(めいぎょく)はいつか結婚させないといけませんし、傅恒(ふこう)が近づかないようにしないといけないし、子が成人しない限りはずっと頼れるような人もいません。
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