瓔珞(えいらく)55話 予期せぬ内通者
目次
あらすじ
瓔珞(えいらく)が爾青(じせい)を殺し富察皇后(ふちゃこうごう)への復讐を遂げたことについて珍児(ちんじ)は皇后に尋ねました。
嫻皇后(かんこうごう)は陛下の瓔珞(えいらく)への寵愛がすぐになくなることはないと見込んでいました。
「千丈の堤も螻蟻(ろうぎ)の穴を以て潰いゆと言うわ。何事も容易に成功することはないわ。」
嫻皇后(かんこうごう)は本を読む手を休めて言いました。
日中の林。
乾隆帝は馬を調教していました。
「爾青(じせい)は皇后様の命日に陛下との秘め事を打ち明けました。失意の皇后様はさらに打ちのめされました。だから死んで当然です。」
乾隆帝は瓔珞(えいらく)に言われた言葉を思い出していました。
「チャ!」
陛下は衝動的に馬を走らせました。
海蘭察(ハイランチャ)たち侍衛(しえい)は慌てて後を追いかけました。
川。
「陛下。私は傅恒(ふこう)ほど賢くないので沈黙されては困ります。」
海蘭察(ハイランチャ)は皇帝に言いました。
「海蘭察(ハイランチャ)。朕はある人に済まぬことをした。」
「陛下。人は誰でも過ちを犯します。謝る必要は・・・。」
「いや。朕の過ちは悔やみきれぬのだ。」
「陛下。過ぎたことです。償えぬのなら忘れるべきかと思います。」
「いや。そうはいかぬのだ。容音は十五の歳で朕の嫡福晋(ふくしん)となった。満開の花のような容音を朕は台無しにした。」
「陛下。陛下は清の希望を背負ってられます。妃嬪(ひひん)の些事にまで世話はできません。妃嬪(ひひん)が自ら乗り越えるべきです。苦しまれても陛下の過ちではありません。」
「容音は特別なおなごだった。朕の正妻であり生涯添い遂げると誓った。だがあの人は意を翻したのだ。令妃(れいひ)に問い詰められるまで朕は傷つきやすいあの人に失望していた。正妻としては完璧だったが皇后の器ではなかった。心が弱すぎて皇后の座に苦しんでいた。世を去って、安らぎを得たかもしれぬ。朕にとっては隠さねばなら醜聞だ。あの人が弱いのではなく、朕が無情すぎたのだ。」
紫禁城の門。
太監は御薬房の薬を処分しに行くところですと門番に説明しました。
門番が中身を見ると薬が虫食いでした。
太監は門番に賄賂を渡しました。
そこに乾隆帝が戻って来ました。
海蘭察(ハイランチャ)は中身を検めました。
「陛下。虫食いの薬にまぎれて冬虫夏草がありました。高価な薬を持ち出そうとしていたな?」
海蘭察(ハイランチャ)は言いました。
太監は土下座して謝りました。
乾隆帝は誰の命令か尋ねました。
太監は葉天士だと答えました。
乾隆帝は御薬房を調べるよう命じました。
承乾宮。
嫻皇后(かんこうごう)が庭に出ると従兄の四格(スゲ)という臣下から送られた鸚鵡(オウム)が言葉を話していました。嫻皇后(かんこうごう)は臆病者の四格(スゲ)や伯父が自分に取り入ろうと貢物を献上する様子をおかしく思いました。
「和親王が従兄に届けさせたのよ。このような珍しい鳥を手にできるのは愛新覚羅(アイシンギョロ)家でも変わり者しかいないわ。」
嫻皇后(かんこうごう)は鸚鵡に餌を与えました。
すると、呉書来がやって来て侍衛(しえい)が御薬房に大挙していると報告しました。
嫻皇后(かんこうごう)は内務府総管の呉書来(ごしょらい)に、侍衛(しえい)のせいで侍医を委縮させてはならぬと命じました。
呉書来は下がりました。
御薬房。
海蘭察(ハイランチャ)は部下を率いてやって来ました。
葉天士は捕らえられました。
他の侍衛(しえい)は薬を調べました。
「索倫(ソロン)殿。説明してください。」
葉天士は言いました。
部下が虫食いの薬を見つけたと報告しました。
葉天士は高級薬材を捨てるには惜しいので売って新たな薬を買う資金にしようと思っていたと釈明しました。
海蘭察(ハイランチャ)は冬虫夏草がまぎれていたと言いました。
葉天士には心当たりがありませんでしえた。
そこに呉書来(ごしょらい)がやって来て「薬を運んだのは太監ゆえ見過ごすことはできません」と言いました。
呉書来は薬と台帳を調べるよう部下の太監に命じました。
延禧宮(えんききゅう)。
令妃(れいひ)瓔珞(えいらく)は絵を描いていました。
明玉(めいぎょく)はあれ以来陛下の御来臨が途絶えていると落胆していました。
瓔珞(えいらく)は明玉(めいぎょく)にくよくよしないよう諭しました。
瓔珞(えいらく)は柳の木を描きました。
養心殿。
乾隆帝は一人で食事をしていましたが、食が進みませんでした。
李玉(りぎょく)はきのこの白菜炒めや蒸餅(しょうべい)と木の実のお粥や卵の汁物もすべてあっさり味にしてあると説明しました。李玉(りぎょく)は椎茸と野菜の炒め物はどうかと尋ねました。
「本当に張東菅(ちょうとうかん)が作ったものか?」
乾隆帝は茶を飲みました。
「陛下。張東菅(ちょうとうかん)は延禧宮(えんききゅう)の料理人になりました。張東菅の蘇州料理は天下一品でございます。豚の煮込み汁は甘いのに飽きない旨さで他の者には作れません。陛下。一度延禧宮(えんききゅう)に行かれてはどうですか?」
李玉(りぎょく)は言いました。
「誰が行くか。令妃(れいひ)は朕の断りなく高官の正妻を死なせて反省もしておらぬ。」
乾隆帝は言いました。
「陛下。そのような不届き者のところに張東菅を仕えさせているのですか?一筋縄ではいかぬので取り返せないかもしれません。」
李玉(りぎょく)は皇帝に胡麻を擦りました。
「令妃(れいひ)を侮辱するな。」
乾隆帝は李玉(りぎょく)を蹴りました。
「申し訳ございません。では陛下。延禧宮(えんききゅう)へは行かないのですか?」
李玉(りぎょく)は尋ねました。
「参る。あんなところに張東菅を置いておけるか。」
乾隆帝は立ちあがりました。
すると徳勝がやって来てすぐに承乾宮に来るよう報告しました。
承乾宮。
乾隆帝は承乾宮に行きました。
呉書来は皇帝に令妃(れいひ)が大量の人参や枸杞、避妊薬を服用していたと報告しました。
嫻皇后(かんこうごう)は何か事情があるかもしれないので調べてみると言いました。
乾隆帝は怒って帰りました。
嫻皇后(かんこうごう)はほくそ笑みました。
延禧宮(えんききゅう)。
乾隆帝は瓔珞(えいらく)を問いただしました。
「黙っているのか?朕が言おう。円明園のときから企んでいたな。純貴妃(じゅんきひ)を排除し容音の仇を討とうと。」
乾隆帝は言いました。
「はい。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
「そなたが皇太后に取り入ったのも朕を挑発するつもりだったのか?」
「はい。」
「朕を突き放したり朕に甘えたりしたのも朕を手玉に取るためだったか。いや、高位になって純貴妃(じゅんきひ)と戦う資格が欲しかったのか?」
「・・・・・・はい。」
「お前の望み通り、純貴妃(じゅんきひ)は死んだ。もう朕は利用価値がない。だから冷淡になったのか?答えよ。どういうつもりだ。」
「その通りなのに聞く必要がありますか?」
「そなたの口から聞きたいのだ。」
「そうです。陛下のお察し通り、富察皇后様の仇を討つために妃嬪(ひひん)になりました。純貴妃(じゅんきひ)を倒すために陛下のご歓心を買ったのです。復讐を遂げた今、陛下を利用する価値がなくなったので歓心も買いません。」
「それならば、なぜ朕に毛皮の帽子を贈ったのだ?」
「罪悪感からです。」
「何だと?」
「陛下によくしていただいたのが後ろめたかったのです。」
「それなのにどうして避妊薬を飲んだ!朕はそなたの手駒でしかないのか?」
「利用されて陛下はお悔しいかもしれませんが富察皇后(ふちゃこうごう)様ほどではありません。」
「魏瓔珞(ぎえいらく)。何が言いたいのだ。」
「なんとつらい別れだろうか。もう二度と会えぬ。生きて別れるより悲しき別れは無い。これからの余生が長すぎる。陛下が詠まれた述悲賦(じゅつひふ)です。一言一句に陛下の真心が表れています。陛下の皇后様への恩愛は誰もが知っておりますが、富察皇后様がご自害なさった理由を誰も知りません。」
「黙らぬか!」
「皇帝のくせい聞く度胸もないのですか?おなごは他に大勢いるのにどうしてヒタラ爾青(じせい)を寵愛なさったのですか?富察皇后様の義理の妹です。皇后様は大晦日に我が子を失った上にこれ以上ない程の恥辱を受けられました。見過ごせるはずがありません。」
「そなたの本音だな。朕は臣下の正室を汚した好色な卑怯者だと思うのか?」
「陛下には罪悪感がないのですか?」
「全くない。」
「陛下はことの良し悪しをご存じのはずです。富察皇后様はご生前から陛下に利用され、死後も利用されました。乾隆十三年。翰林院(かんりんいん)や礼部、宗人府(そうしんぶ)から戒告処分を受けられました。両江(りょうこう)や閩浙(びんせつ)ら五十三名の官吏も弔問を申し出ずに処罰されました。盛京(せいけい)や寧夏(ねいか)など八旗の貴族も国葬に反対するか喪に服さぬ罪で死罪や罷免になりました。陛下のこれらの罰は、皇后様の死に乗じただけではありませんあ?」
「そなたはずっと思っていたのだな?」
「そうです。富察皇后(ふちゃこうごう)様のご名誉のためにお答えください。」
「朕は、即位してから民に配慮し寛大に治めてきた。先帝が残した傷を癒すためだった。百官に職務を果たさせ民に繁栄をもたらすためでもある。十三年が過ぎた。朕の臣下たちは朕の寛容に怠けて本分を忘れて禄をむさぼる始末。朕には刀が必要だった。臣下を粛正する刀が。先の皇后を、朕の刀にしたのだ。富察容音は生きていれば清の皇后だ。死んだとしても最後まで力を使う。」
「あなたは無情です。」
「魏瓔珞(ぎえいらく)よ。朕が優しすぎて忘れておるようだが、朕は帝王である。帝王は無情だ。朕の威厳を脅かす者は赦さぬ。入内したそなたは朕のものだ。そなたの望みに関係無く生涯紫禁城を出られぬ。これからは、薬を飲まずともよい。そなたには必要なくなる。」
乾隆帝は延禧宮(えんききゅう)を後にしました。
袁春望(えんしゅんぼう)は恨めしそうに皇帝の背中を眺めていました。
部屋。
瓔珞(えいらく)は悲しみをこらえていました。
明玉(めいぎょく)が戻って来て葉天士が捕まったと瓔珞(えいらく)に報告しました。
「避妊薬の服用がばれたわ。」
「そんな。皇子を産んでこそ安泰でしょ。早く謝りに行きなさい。そんな言い訳をしてでも赦してもらうのよ!」
「明玉(めいぎょく)。手遅れよ。もう言ってしまったの。復讐のことを。」
「瓔珞(えいらく)。あなたどうかしてる。」
「もう耐えられなかったの。」
「そんな言葉でごまかす気?」
「(前皇后を愛していたのか)ずっと疑問に思っていたの。陛下に問いただす好機だったの。」
「それで納得したの?陛下はあなたにどんな罰を?」
「この延禧宮(えんききゅう)は、これから本当の冷宮になるわ。」
養心殿。
「朕は疲れた。一人にしてくれ。」
乾隆帝は李玉(りぎょく)に言いました。
夜。
乾隆帝は部屋の外に立っていました。
嫻皇后(かんこうごう)は外套を乾隆帝に着せました。
「皇后。朕に怒っていないか?」
「怒りました。」
「では、恨んだか?」
「怒りは覚えましたが恨んではおりません。」
「なぜだ。容音が生きていたら、朕を恨んだはずだ。」
「陛下は天下の主で私は後宮の主です。私たちは普通の夫婦ではありません。情に流されていては皆に笑われます。前皇后様を批判するわけではありませんが、本分はわきまえるべきです。私は陛下の御恩を受けて後宮を任されました。ならば私は後宮を管理するという務めを果たして期待にお応えします。」
「令妃(れいひ)は、朕が冷酷で非情だと言った。」
「道理や大義の視点では陛下には非の打ちどころがありません。陛下は眠る時間を減らしてでも政務にいそしんでおられます。後宮の役割は陛下にお仕えして皇子を産むことであり陛下にご迷惑をかけることではありません。後宮は虚しいと人は言いますが、壁の外との違いはありません。民も必死で働き妻は家の中を管理します。妃嬪(ひひん)のほうが恵まれているでしょう。手本となるべき皇后が自害するなど済まないと思うのは陛下ではなくむしろ前皇后様です。」
「分かっていた。容音が束縛を好まぬことを。」
「誰でも自由を求めますが陛下とて自由になれることは一日もございません。自由とは責任を負わないことなのです。陛下。令妃(れいひ)や富察皇后(ふちゃこうごう)様が陛下を憎もうとも私は憎みません。」
「那爾布(ナルブ)を、朕は死なせたのに?」
「父のことでは陛下を責めました。ですが今では後悔しています。他の者が陛下を責めるのはともかく、皇后が陛下を責めるのは富察皇后(ふちゃこうごう)様や令妃(れいひ)と同じではありませんか?」
「皇后。そこまで言ってくれたのは、そなただけだ。」
「陛下を他の者が誤解しようとも、私は陛下の味方です。陛下は天子でございます。誰の指図も受けてはなりませぬ。」
嫻皇后(かんこうごう)は乾隆帝に寄り添いました。
日中の延禧宮(えんききゅう)。
瓔珞(えいらく)は女官と太監たちを辞めさせ呉書来(ごしょらい)に預けることにしました。
「陛下は二度とお越しにならないわ。嘘じゃないの。もうあなたたちを守れないの。他に移ってちょうだい。もう誰もいらないの。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
瓔珞(えいらく)は銀塊を皆に分け与えました。
「令妃(れいひ)様。悪名高い私などどこにも受け入れてもらえません。どうかここに置いて下さい。」
小全子(しょうぜんし)は頼みました。
珍珠(ちんじゅ)も何も言わずに残っていました。
珍珠(ちんじゅ)は洗濯物を干しに行きました。
小全子(しょうぜんし)も仕事に戻りました。
「あなたは一緒に来て。」
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)に命じました。
承乾宮。
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)と共に皇后に会いました。
「皇后様。正直におっしゃってください。すべてご存じだったのでは?」
瓔珞(えいらく)は尋ねました。
嫻皇后(かんこうごう)はしらを切りました。
瓔珞(えいらく)は袁春望(えんしゅんぼう)を指さし琥珀とともに皇后が懐柔していたことを指摘しました。
感想
瓔珞(えいらく)55話の感想です。ついに富察皇后(ふちゃこうごう)を死に追いやった犯人を一人を残してすべて殺した瓔珞(えいらく)は復讐の本懐を遂げました。そして、このことを知った乾隆帝は自分が愛されていないことを疑い瓔珞を遠ざけるようになりました。延禧宮(えんききゅう)は冷宮となり、瓔珞(えいらく)は使用人たちに小さな銀塊を渡して解雇してしまいました。瓔珞(えいらく)を慕う明玉(めいぎょく)と珍珠(ちんじゅ)、小全子(しょうぜんし)だけが残りました。
嫻皇后(かんこうごう)は乾隆帝の気を瓔珞(えいらく)から引き離すために裏で工作していました。
そして袁春望(えんしゅんぼう)は何と瓔珞(えいらく)を裏切りながらも仕えている振りをしていたのでした!!
って前からわかっていたけどね!手のひら返し!
今回は乾隆帝が富察皇后(ふちゃこうごう)のことを忘れられず、皇后の務めを果たせないのに結婚してしまったことが説明されていました。富察皇后(ふちゃこうごう)は自由奔放を求める優しい女性。まるでイギリスのお妃のダイアナさんのようですね。ドラマの参考にしたのかもしれません。
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