瓔珞(えいらく)67話 深まる亀裂
目次
あらすじ
永琪(えいき)の銃が暴発して脚に重症を負ったた事件で袁春望(えんしゅんぼう)は第四皇子永珹(えいせい)に皇子暗殺未遂の罪を着せました。永珹(えいせい)は嫻皇后(かんこうごう)が自分に濡れ衣を着せたと父の皇帝に訴えました。何も知らない嫻皇后(かんこうごう)は自らは第五皇子を傷つけておらず永珹(えいせい)の悪行を知ったのはこれが初めてだと釈明しました。
「父上!信じてはなりません!この女は偽善者です。順嬪(じゅんひん)も警告していました。義母上は実の子を支援するために私や五弟を排除すると。父上。どうか私を信じてください!」
永珹(えいせい)は必死で訴えました。
「第四皇子よ。冷静になってください。真偽は調べればわかります。」
傅恒(ふこう)は言いました。
李玉(りぎょく)が戻って来て阿哥所(あかしょ)の管事(かんじ)太監が料理を調べたところ、毒が入っておらず珍児(ちんじ)の病も本当だったと報告しました。
「珍児(ちんじ)さんは今宵第四皇子様に会っておられないそうです。」
李玉(りぎょく)は言いました
「嘘だ。珍児(ちんじ)は義母上が食事に毒を盛ったと。私はこの耳で聞きました。」
永珹(えいせい)はすっかり動揺していました。
「尽忠はどうだ?」
乾隆帝は尋ねました。
李玉(りぎょく)は尽忠の姿が見えないので捜させていると報告しました。
「分かったぞ。そうか。あんただ!謀ったのだな!義母上。どうしてこのような仕打ちをするのですか?実母のようにお慕いしているのにやはり実の子のほうが大切なのですね?だから私を殺そうと。私はいつでも捨てられる駒だったのですね。」
永珹(えいせい)は嫻皇后(かんこうごう)の足元に泣きつきました。
「永珹(えいせい)。あなたはまだ過ちを重ねるつもり?」
嫻皇后(かんこうごう)は言いました。
袁春望(えんしゅんぼう)は第四皇子に下がるように言いました。
「過ち?過ちだと?才能が無いから一生懸命努力してきたのに、父上や師傅(しふ)たちは五弟ばかり褒めて。私は嫡男ではないからこそ必死で努力してきたのです。それなのに十二皇子の足元にすら及ばなかったとは!どうしてですか!どうしてですか!私も父上を失望させぬ、義母上の実の息子でいたかった!でも違う。もう違うのですね。父上と義母上にとって私は単なる卑怯者。そうなんでしょう!!!どうしてですか。義母上。ひどすぎます。」
永珹(えいせい)は悲しみました。
乾隆帝は永珹(えいせい)を収監するよう命じました。
乾隆帝は傅恒(ふこう)を連れて行きました。
養心殿の中。
「お前も永珹(えいせい)の仕業と思うか?」
乾隆帝は尋ねました。
「陛下。私にはわかりません。」
傅恒(ふこう)は言いました。
「お前は言いたくないだけでは?」
乾隆帝は言いました。
「陛下。私は第四皇子の話を信じます。第五皇子の愛用の銃を破壊しても新しく借りた銃には触れていない。第五皇子の怪我は事故なのかも。」
傅恒(ふこう)は答えました。
「だが話ができすぎている。永珹(えいせい)に永琪(えいき)を殺す動機がなかったとしてもあやつは狭量ゆえやることが卑劣ゆえ何者かの刃にされたのやもしれぬ。一太刀で朕の息子二人も傷つけるとは大したものだ。愚かな永珹(えいせい)。朕でも救ってやれぬ。宗人府で反省させるしかない。」
乾隆帝は言いました。
承乾宮。
袁春望(えんしゅんぼう)は皇后に永珹(えいせい)が宗人府(そうじんふ)に収監されることになったと報告しました。
「永珹(えいせい)は愚かだけど私が育てた子よ。第五皇子を狙ったのなら陛下は私を疑っている。」
「陛下にそんなそぶりはなかったですよ?」
「まだ憶測の段階だから何も聞かなかったのよ。永珹(えいせい)のせいで疑われてしまったわ。頭痛がするわ。侍医を呼んでちょうだい。」
嫻皇后(かんこうごう)は頭を押さえました。
朝の延禧宮(えんききゅう)。
瓔珞(えいらく)は小全子(しょうぜんし)から事件の経緯を知らされ皇后の症状も重いようだと報告を受けました。
「そんなことはどうでもいいわ。江南の件はどうなったの?」
「葉先生は三年前に故郷に戻るとすぐに旅に出て杭州に落ち着かれたそうです。既に遣いを送りました。」
「永琪(えいき)が怪我をするなら葉侍医を手放さなければよかった。」
「令貴妃(れいきひ)様。貴妃(きひ)様が見放されなくても葉侍医はとっくに逃げ出していたことでしょう。」
珍児(ちんじ)は瓔珞(えいらく)の髪を梳かしながら言いました。
瓔珞(えいらく)は葉天士に永琪(えいき)を助けさせるつもりでした。
小全子(しょうぜんし)は第十五皇子が狙われないか心配しました。
養心殿。
乾隆帝は疲れて椅子に座ったまま眠っていました。
瓔珞(えいらく)は夜を徹してまでして働いていては健康を害すると心配しました。
乾隆帝は瓔珞(えいらく)が永琪(えいき)の件を静観しているのはそなたらしくないと言いました。
瓔珞(えいらく)は第四皇子の処分を迫るつもりだったと言いました。
「なぜ気が変わった?」
「ひどくお疲れのようで見るに堪えないからです。」
瓔珞(えいらく)は乾隆帝の手を握りました。
「お尋ねします。天の寵児である永琪(えいき)は翼をもがれました。陛下はこのままあの子を見限るおつもりですか?あの子は善良なので陛下に何も申しません。ゆえに不届きな私が申すべきではないかと考えていました。第四皇子は私にとって他人ですが陛下の実の子です。血を分けた子を陛下が処罰なさるなんてとてもおつらいはずです。」
「他の妃嬪(ひひん)ならこう言うだろう。陛下の子は私の息子でもありますと。直接申すのはそなただけだ。」
「お世辞を聞きたいのですか?確かに聞こえはよいでしょう。ですが誰もが同じ考えではありません。実の子でなくては愛せぬ者もいます。」
「そなたは何が言いたい。」
「証拠がないので断言できませんが、今回の事は承乾宮が関わっていると思います。陛下。たった一日で大切な皇子が二人も害されたのです。私も悲しく気が気でなりません。永琰(えいえん)の身にも同じことが起きぬかと。」
「まさか。」
「ないと言い切れますか?」
「永琰(えいえん)のことは朕が守る。」
「陛下は信じますが、あの方は信じられません。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
瓔珞(えいらく)が帰ると乾隆帝は榮(えい)という字を筆で書きました。
「李玉(りぎょく)。勅旨を出す。永琪(えいき)を榮親王(えいしんのう)に封じる。それから本日より御前侍衛(しえい)に交代で阿哥所(あかしょ)を見張らせろ。」
乾隆帝は言いました。
李玉(りぎょく)は太医院からの知らせで昨夜皇太后が激しい頭痛に見舞われたと報告しました。
承乾宮。
嫻皇后(かんこうごう)は寝台で休んでいました。
「太医院に報告させた?」
嫻皇后(かんこうごう)は珍児(ちんじ)に尋ねました。
珍児(ちんじ)は報告したので大朝会が終われば陛下が見舞に来るだろうと答えました。
嫻皇后(かんこうごう)はまだ治っていない珍児(ちんじ)に休むように言うと、珍児(ちんじ)は仕えたいと言いました。
嫻皇后(かんこうごう)は珍児(ちんじ)に自分の髪を梳いて化粧をするよう命じました。
袁春望(えんしゅんぼう)は珍児(ちんじ)より格下の女官に「なんて地味な姿だ。こうすれば皇后様の気も晴れるだろう」と言って花一輪を髪に挿しました。女官は珍児(ちんじ)に怒られると言って断りました。袁春望(えんしゅんぼう)は女官に対し、いつも珍児(ちんじ)から何を言われているのか尋ねました。女官は袁総管に話しかけたり微笑んだりしないように言われていると答えました。
嫻皇后(かんこうごう)の部屋。
「珍児(ちんじ)。私は本当に老けたわね。」
嫻皇后(かんこうごう)は手鏡で自らの姿を見て嘆きました。
「そんなことはございません。」
珍児(ちんじ)は言いました。
「首のあたりの衰えは隠せないわ。目じりのシワも。見て。」
嫻皇后(かんこうごう)は言いました。
「皇后様。大丈夫です。私には何も見えません。」
「ごまかすつもり?」
「皇后様。私には何もわかりません。皇后様は昔も今も変わらずお美しいです。」
珍児(ちんじ)は言いました。
花をつけた女官が皇后に薬を持って来ました。
嫻皇后(かんこうごう)は花をつけている女官の頬から血がでるほど叩きました。
女官は土下座して謝りました。
そこに乾隆帝がやって来て女官を逃がしました。
「皇后。そなたは体を大切にせよ。」
「私がなぜ奴婢に八つ当たりしたかご存じでは?」
「陛下は私を疑っています。陛下は確信してらっしゃるのでしょう?私が皇子の排除を企てたと。陛下よくお考え下さい。永珹(えいせい)が病になるたびに私は夜通し看病し、あの子が回復すると私は病になりました。愛情を注いで得たものが恨みだなんて、なんと無情なことでしょうか。陛下。他の者が私を疑っても、陛下だけは信じてください。」
嫻皇后(かんこうごう)は皇帝の手を掴んで揺さぶりました。
「侍医を呼べ。」
乾隆帝は言いました。
「陛下。私は正気です。病ではありません。」
嫻皇后(かんこうごう)は不安になりました。
乾隆帝は帰りました。
「珍児(ちんじ)。永璂(えいき)とは差があっても永珹(えいせい)には真心で接してきたわ。どうして裏切られたのかしら。人はどこまで貪欲なのかしら。私にはわからないことばかりよ。よう考えないとね。でも頭が痛すぎる。」
嫻皇后(かんこうごう)の気持ちは弱っていました。
「皇后様。考えるのは後日にしてお休みください。」
珍児(ちんじ)は皇后を休ませました。
養心殿。
李玉(りぎょく)は尽忠を捜したがどこにもおらず、井戸の中に見るに堪えない躯があったと報告しました。女官は承乾宮で先日叱責されていた雲香(うんこう)という女官でした。
承乾宮。
嫻皇后(かんこうごう)は鏡で自分の老いを気にしていました。
珍児(ちんじ)は豚足から抽出した膠を寝る前に顔に塗って朝に乳清で顔を洗えば皺が消えたと言いました。
嫻皇后(かんこうごう)は満足しました。
袁春望(えんしゅんぼう)が新しい鸚鵡(おうむ)を和親王から貰ってきました。
「福が戻って来たみたいだわ。」
嫻皇后(かんこうごう)は喜びました。
太監が部屋に入って来て雲香の遺体が見つかったと報告しました。
「そんな、許せない。なんて卑怯なの!」
嫻皇后(かんこうごう)は鸚鵡が入った籠を手で振り払いました。
袁春望(えんしゅんぼう)は不吉な知らせをした太監を叱って下がらせました。
「また皺ができたわ。消えていたのに。珍児(ちんじ)。皺ができたわ。思い込みね。まやかしよ。鸚鵡は死んだ。他の何にもとって代われない。この顔もそうよ。二十年前には戻れないわ。下がりなさい。」
嫻皇后(かんこうごう)は現実を受け止めました。
庭。
珍児(ちんじ)は袁春望(えんしゅんぼう)にどうして昔を思い出す鸚鵡を持って来たのか尋ねました。袁春望(えんしゅんぼう)は知らないと答えました。珍児(ちんじ)は自害する動機の無い女官がどうして死んだのか尋ねました。
「あなたは私を応援してくれるのだろ?忘れたのか?」
袁春望(えんしゅんぼう)は珍児(ちんじ)の手を掴みました。
「忘れてないけど陛下の皇后様への疑惑は強まったわ。あなたは本当に味方なの?」
「こうでもしないと陛下の本性は暴けない。皇后様には夢から目を覚まして欲しいのだ。」
「あなたは!」
「よく聞け。今の情勢を見ろ。第五皇子は障がいを負い第四皇子は罪人となった。今世継ぎに最も近いのは第十二皇子様だ。私は誓いを実行して皇后様をお助けしている。」
「でも皇后様は心を病まれてこれ以上刺激すれば壊れてしまうわ。」
「そんなことはない。皇后様はそなたが思うより強くて聡明なお方だ。私がしていることは皇后様と十二皇子様のためだ。珍児(ちんじ)。私を信じてくれ。」
袁春望(えんしゅんぼう)は珍児(ちんじ)の肩に触れました。
「信じるわ。」
珍児(ちんじ)は自信なさそうに言いました。
寿康宮(じゅこうきゅう)。
舒妃(じょひ)は皇太后に死んだ女官は虐待に耐えきれなかったらしいと噂を伝えました。慶妃(けいひ)陸氏はその女官は鞭打ち三十回だったらしいと言いました。
「女官が自害すれば家族の罪が問われるのよ。鞭打ち三十回ごときで身投げするはずないわ。」
舒妃(じょひ)は言いました。
皇太后は奴婢を死なせるなどとんでもないことで皇后の手腕が問われると不快感を示しました。
瓔珞(えいらく)は女官が虐待されたというのは根拠のない噂だと言いました。
舒妃(じょひ)は女官の身体にあざがいくつもあったらしいと言いました。
慶妃(けいひ)は皇后様は病なので感情の起伏が激しいと言いました。
舒妃(じょひ)は皇后は見るからに心の病だと言いました。
嫻皇后(かんこうごう)が挨拶に来ました。
舒妃(じょひ)は見舞に行こうと思っていたところだと言いました。
嫻皇后(かんこうごう)は鍼で治ったと言いました。
皇太后は嫻皇后(かんこうごう)はもうすぐ陛下の南行があるので回復した皇后も随行できそうだと言いました。
嫻皇后(かんこうごう)はしっかり陛下に仕えると言いました。
皇太后は外で遊んでいる皇女たちを昼寝させたら昭華八宝鴨が好物なので栗ともち米抜きで食事を作るよう侍女に命じました。
「そうだわ。皇女たちも南巡に連れて行きましょう。」
皇太后は言いました。
嫻皇后(かんこうごう)は皇女には宮中で掟を学ばせたいと反対しました。
「あんな幼い子を掟で縛り付けるとかえって愚かになるわ。宮中でのしつけは私がするわ。寿康宮(じゅこうきゅう)で育てた子どもたちが不作法とは誰にも言わせないわ。」
皇太后は言いました。
瓔珞(えいらく)は皇太后に娘は木蘭囲場から戻ったときは大病を患ったので幼い娘を南巡には出さずに留守番させるべきだと言いました。
皇太后は趙女官(ちょうにょかん)と周女官と賢い古参の女官四人を皇女に仕えさせると言いました。
舒妃(じょひ)は皇太后に蘇州や杭州を通るか尋ねました。
皇太后は今回の陛下の南下の目的はは治水工事の成果を確かめるためなのでもちろん運河を下ると言いました。
寿康宮(じゅこうきゅう)の庭。
「令貴妃(れいきひ)。令貴妃(れいきひ)。痛みなくして得るものなしと言うけどあなたは子を手放したかいがあったわね。」
舒妃(じょひ)は馴れ馴れしく瓔珞(えいらく)に話しかけました。
「あなたには手離すものすらない。」
瓔珞(えいらく)は冷たく言いました。
「納蘭(ナーラン)さん。先日頂いた髪油はどう使うのですか?」
慶妃は話題を変えました。
「何度も言ったように菊の花を浸して使うのよ。」
舒妃(じょひ)は言いました。
「納蘭(ナーラン)が見せてください。」
慶妃(けいひ)は舒妃(じょひ)と一緒に帰りました。
「皇后様は病なのですか?」
瓔珞(えいらく)は嫻皇后(かんこうごう)に話しかけました。
「この間否定したのに病であることを望んでいるのかしら?」
嫻皇后(かんこうごう)は表情も無く答えました。
「皇后様のお顔色がよくなさそうに見えたので此度の南下に行はかず養生なさったほうがよいと思います。移動が多いのでお体に負担になります。」
瓔珞(えいらく)は言いました。
「余計な心配は無用よ。私は健康よ。」
嫻皇后(かんこうごう)は威張って去りました。
「令貴妃(れいきひ)様。皇后様の南巡をどうしてお尋ねになったのですか?」
珍珠(ちんじゅ)は尋ねました。
「子どもたちは紫禁城に残るわ。皇后が一緒だと心配なの。だから必ず行かせないと。」
瓔珞(えいらく)は答えました。
通路。
「永琰(えいえん)に贈った墨や硯はとても希少なものよ。なぜ使わせないのかしら。」
舒妃(じょひ)は慶妃(けいひ)に言いました。
「永琰(えいえん)は幼いので壊さないか心配なのでしょう。納蘭(ナーラン)さん。あなたはどうしてそんな目で私を見るのですか?」
慶妃(けいひ)は言いました。
「私が永琰(えいえん)を害するというの?」
舒妃(じょひ)は怒りました。
「納蘭(ナーラン)さん。そうではありません。あの宣徳岩端硯(せんとくがんたんけん)はとても貴重な品です。」
慶妃(けいひ)は控え目に言いました。
「あなたも私を疑っているのね!だから私が贈った衣を着せずおもちゃも使わせない。あなた!あなたは意地汚く想像しないでちょだい。私と令貴妃(れいきひ)は仲が悪く嫌味も言い合う。私は令貴妃(れいきひ)ほど子宝に恵まれない。あの人は三人も子がいるのに!私はたった一人の子すら失った。永琰(えいえん)は無邪気で可愛いわ。初めて言葉を話した時や歩いた時は心から喜んだわよ。でもここは紫禁城なの。皇子を害せば納蘭(ナーラン)一族は死罪になる。そこまで愚かではないわ!」
舒妃(じょひ)は悲しそうに怒ると先を急ぎました。
その様子を袁春望(えんしゅんぼう)が立ち聞きしていました。
「傷つけてしまったわ。」
慶妃(けいひ)は落胆しました。
「慶妃(けいひ)様。舒妃(じょひ)様は第十五皇子様のためと分かっているはずです。」
侍女は慶妃(けいひ)を慰めました。
「私は邪推しすぎかしら。戻ったらあの筆と硯を出して。」
慶妃(けいひ)は呟きました。
養心殿。
嫻皇后(かんこうごう)は乾隆帝に会いました。
乾隆帝は皇后の顔色が悪いことを案じました。
嫻皇后(かんこうごう)は南巡に随行する妃嬪(ひひん)の名簿を確かめて欲しいと頼みました。
「皇后は病であろう。諸事は令貴妃(れいきひ)に任せておけ。」
乾隆帝は事務的な口調で言いました。
「陛下。私は皇后です。南巡は最重要事項であるため病であろうとしかと処理するのが私の務めです。」
「皇后。そなたは紫禁城に残り養生せよ。南巡に付き合えば病が悪化するゆえ行かずともよい。」
「私は健康です!!!皇后が皇太后様に伴いお世話するのは孝行と礼儀の基本です。陛下が認めてくださるなら女官に扮してでも私は随行します。陛下。私にそこまでさせてよいと思いますか?」
「そなたは朕になぜ病を隠そうとするのだ。今回の南巡は運河を南下するゆえ長い道のりだ。皇后は途中で倒れてしまうぞ。」
「陛下は皇后だけが紫禁城に取り残されれば朝臣や民はどう思うと思いますか?」
「皇后が案じていたのは孝行や礼儀ではなく己の威厳であったか?」
「いいえ。私の威厳は清国の体面と掟でもあります。陛下は天下にこう知らしめたいのですか?清の皇后は陛下の飾り物で単なる荷だと。」
「皇后。」
「何があろうと私は行きます。」
「皇后。そなたはどうして朕の心遣いを邪推する。一体どうしたのだ。」
「思い違いをしてらっしゃるのは私ではなく陛下のほうです。」
「朕は既に決断した。そなたは紫禁城に残れ。」
「陛下。私は陛下のお怒りを買おうと南巡に随行いたします。私はこれで失礼します。」
嫻皇后(かんこうごう)は目に涙を溜めて逆らいました。
承乾宮。
嫻皇后(かんこうごう)は丸一日食事も摂らずに寝台に座っていました。
珍児(ちんじ)も南巡に反対しました。
「陛下のこれまでの南巡は皇后や皇族や重臣が皆随行したわ。とても名誉なことなの。私が行かなければ臣下たちは騒ぎだすに違いない。皇后は重病で死にかけていると。あるいは私が過ちを犯して陛下に疎まれていると。珍児(ちんじ)。意地を張るために闘うのではないの。清の皇后の尊厳と対面のために闘うの。」
嫻皇后(かんこうごう)は言いました。
承乾宮の庭。
第十二皇子が食事を摂らない母を心配して会いにやって来ました。
珍児(ちんじ)は上書房(じょうそぼう)に行かないと皇后様に怒られると諭しました。
永璂(えいき)は心配そうに引き返そうとすると、袁春望(えんしゅんぼう)が表れました。
「皇后様の病は治りません。陛下がお考えを正さないと。」
袁春望(えんしゅんぼう)は永璂(えいき)に言いました。
「すべては母上のためを思ってのことだ。養生して何が悪いのだ?」
永璂(えいき)は言いました。
「皇后様が随行にこだわる理由は何だと思いますか?あなた様のためでございます。」
「私のためだと言うのか?」
「第五皇子は怪我の養生中で第四皇子は獄中です。陛下が皇后様を随行させないとなれば噂が飛び交い皇子様の前途に暗雲が垂れ込めます。だから皇后様は何としてでも随行せねばならぬのです。陛下を説得できるのはお子であるあなた様だけです。」
袁春望(えんしゅんぼう)は言いました。
永璂(えいき)が父のもとへ向かうと袁春望(えんしゅんぼう)は部下に榮親王(えいしんのう)に永璂(えいき)を助けさせるよう命じました。
養心殿の庭。
永璂(えいき)は跪いて母の随行の赦しを求めていました。
李玉(りぎょく)は困り果てました。
「李総監。この通りだ。」
「恐れ多いことです。お伝えしてきますのでお待ちくださいませ。」
李玉(りぎょく)は部屋に戻りました。
時が過ぎました。
「第十二皇子様。お飲みくださいませ。」
徳勝が飲み物を持って来ました。
永璂(えいき)は首を横に振りました。
皇帝の部屋。
乾隆帝は永璂(えいき)を上書房に戻させるよう李玉(りぎょく)に命じました。
部屋に杖をついた永琪(えいき)がやって来ました。
乾隆帝はすぐに永琪(えいき)を椅子に腰かけさせました。
「父上。永璂(えいき)はまだ子どもなのに孝行者だと思いませんか?」
「歪んだ孝行心で朕を脅しているのだ。」
「父上。皇后様を随行させないのは私のためですか?」
「いや。お前とは無関係だ。皇后は病だからしっかり養生させたいのだ。」
「道中のほとんどは船の上ですし侍医も大勢随行します。皇后様を随行させてください。江南は風光明媚なところゆえ私も見て見たいです。」
「お前も?」
感想
瓔珞(えいらく)66話の感想です。前回から登場した好青年の永琪(えいき)があっという間に消されそうになりました。愉妃(ゆひ)の息子永琪(えいき)にあんな酷いことをするなんて袁春望(えんしゅんぼう)は何て酷い奴なのでしょう!永琪(えいき)も彼なりに見えないところで努力していたからこそ優れた様子を父に見せることができたのです。
袁春望(えんしゅんぼう)の策略により、嫻皇后(かんこうごう)は嘉貴妃(一人目の嘉貴人)の息子の永珹(えいせい)を完全に見放しました。もとより自分が殺した女性の息子なのに母と慕わせるなんてあまりに残忍すぎますけど。
皇子たちもすっかり大きくなり瓔珞(えいらく)は我が子を守らなければいけない状況になってきました。以前と違って瓔珞(えいらく)は全面に立って動くのではなく、敵に気づかれぬよう綿密に調べているようです。
感想
瓔珞(えいらく)67話の感想です。前回から登場した好青年の永琪(えいき)があっという間に消されそうになりました。愉妃(ゆひ)の息子永琪(えいき)にあんな酷いことをするなんて袁春望(えんしゅんぼう)は何て酷い奴なのでしょう!永琪(えいき)も彼なりに見えないところで努力していたからこそ優れた様子を父に見せることができたのです。
袁春望(えんしゅんぼう)の策略により、嫻皇后(かんこうごう)は嘉貴妃(一人目の嘉貴人)の息子の永珹(えいせい)を完全に見放しました。もとより自分が殺した女性の息子なのに母と慕わせるなんてあまりに残忍すぎますけど。
皇子たちもすっかり大きくなり瓔珞(えいらく)は我が子を守らなければいけない状況になってきました。以前と違って瓔珞(えいらく)は全面に立って動くのではなく、敵に気づかれぬよう綿密に調べているようです。
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